高校中退して試験観察の身に、田舎のガソリンスタンドへ

大山 10代のときに、自分から率先して就いた仕事は、精肉店とパチンコ屋さんくらいです。初めて職に就いたガソリンスタンドは施設から紹介されました。社長の家に住み込みで1年間。

開沼 1年間働きなさいと?

大山 1年間と決められていたわけではなかったんですけど、当時は保護観察ではなくて試験観察だったので、何かしてしまえばそれで……。

開沼 保護観察と試験観察は何が違うんですか?

大山 保護観察は、月に2回くらい、決められた日に保護司に会いに行って、そのときの状況を報告します。なんかあれば保護観察所に報告するという感じで、ちょっと目つけられているという程度のレベルです。

 試験観察は、なんかあったらすぐに少年院といった感じで、もっと厳しいルールがありました。言ってしまえば、大人しくせざるを得なかったので、その間はガソリンスタンドで働いて、1年の試験観察が解けた瞬間に逃げましたよ。そこからは、また結局悪さをしてという状態にはなってしまったんですけど。

開沼 そのガソリンスタンドは隔離された田舎にあったんですか?

大山 広島県豊田郡安芸津町というところで、広島市までだいたい電車で1時間半かかります。本当に何もないですね。一番近いコンビニが2キロ先、自動販売機もないようなところです。

開沼 友だちにも会えない状態ですね。

大山 まったくです。携帯も持たせてもらえなかったし、すべてを絶たれた状態でした。テレビを見たり、本当はダメですけど、タバコを吸うくらいの自由はありましたが。

開沼 それは何歳ぐらいのときでした?

大山 高校を出てすぐパクられて、15歳くらいですね。

開沼 中学を出てそこまでは早かったですね。高校在学期間は3日だった?

大山 3日です。退学の手続きは、1ヵ月、2ヵ月後くらいにされたみたいですが、3日で行かなくなりました。校長先生が父親のいる拘置所に接見しに行って、そこで退学手続きのはんこを押してもらったみたいです。その当時は、僕は父親の面会に行っていないんで、僕の知らないところで手続きをしていたみたいですね。

 ガソリンスタンドを辞めてからは、住む家がなくなったので、ホームレスも経験しました。ただ、まぁ、父親との面会がきっかけといえばきっかけとなって、それから真面目に働くようになりましたね。

被害者遺族であると同時に、加害者の息子という立場にもある大山氏。数えきれない差別を受けるなかで、彼に芽生えたある決意とは。なぜ、憎んでいた父親の死刑を望まなくなったのか、その心境の変化にも迫る。次回更新は、1月20日(月)を予定。


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