日本ヒューレット・パッカード(HP)社長から経営再建中のダイエー社長に転身し、現在はマイクロソフト日本法人の代表執行役兼COOを務める樋口泰行氏。その樋口氏が、ダイエー再生の修羅場で培った変革型リーダーの要諦を明らかにする。
私がダイエー社長に就任した理由
ダイエーの社長ポストを打診されたのは、日本HP社長に就任して2年が経った頃でした。全社一丸となって目標に邁進していたため、HP社員からは猛反対されました。何人かにそれとなく話したところ、「我々を見捨てるつもりですか!」と責められ、正式に申し出を断りました。
ところが、それ以降も各方面からの就任要請が相次ぎました。経営者の諸先輩方から「ダイエーだけは絶対にやめておけ」と言われたこともあり、固辞し続けていましたが、最後には「赤紙だと思って引き受けてください」と迫られたほどです。
その私が最終的に申し出を引き受けたのは、若くて馬力のあるうちに日本のために貢献したいという思いと、ダイエー社員たちの力になりたいという思いが強かったからです。また、私はダイエーが創業した1957(昭和32)年に、ダイエーが発祥した神戸で生まれました。そこに何か偶然とは思えないものを感じたのも事実です。
いま振り返ると、まだその頃はダイエー再生の大変さがわかっていなかったのだと思います。小売りの再生がどれほど難しいか、産業再生機構や投資ファンドがどんな思考をするのか、債権放棄に応じて頂いた金融機関のモニタリングがどれほど厳しいか……それらを頭の中では理解しているつもりでしたが、肌感覚では理解していなかったのです。
小売りは現場こそがすべて
ダイエー入社が正式に決まると、経営者の諸先輩方が異口同音にこうアドバイスしてくれました。「樋口さん、数字は気にするな。とにかく現場に行って、現場の人たちと一緒に頑張って、現場で問題を把握して解決していけば、数字は後からついてくるから」と。
私は、やはりそれが経営の原点なのかと思い至り、ダイエーでは必ずその通りに実行しようと心に誓ったのです。
私自身、日本HPでは、自ら現場に降りていくというスタイルで経営してきたつもりです。特に小売りの場合は、お客様との接点がすべて現場にあるため、現場のモラルやモチベーション次第で結果が大きく変わってきます。