日本ヒューレット・パッカード(HP)社長から経営再建中のダイエー社長に転身し、現在はマイクロソフト日本法人の代表執行役兼COOを務める樋口泰行氏。その樋口氏が、ダイエー再生の修羅場で培った変革型リーダーの要諦を明らかにする。

現場とのコミュニケーションをどう図るか

樋口泰行氏
 ダイエーの現場改革で私が真っ先に行なったのが、全店長への挨拶でした。

 現場(店舗)の意識を変えるには、現場を束ねる店長とコネクトしないと何も動きません。本部が戦略を立てても、それが実際に現場の動きとして伝わっていかなければ、何もやっていないに等しい。

 そこで、社長になった週の土日に全263店舗の店長に電話をかけることにしました。あらかじめ店長名簿を受け取り、上から順番に電話をかけ始めたのです。通常は秘書が電話を取り次いでいましたが、自分でかけてこそ意味があると考えたのです。

 電話をかけたからと言って、特別なことを話すわけではありません。「新しく入った樋口です。これから一つひとつ改革を進めますから、現場もとにかく踏ん張ってほしい。何かあったらすぐ電話をください」と、これだけを伝える。

 驚いたのは、店長が不在だったりすると、皆さん慌てて掛け直してくる。聞いた話では、過去に経営トップが店長に電話したところ不在だったと。「土日に店長がいないとは何事か!」となって、翌日、その店長は地方に飛ばされたそうです。

 経営トップから電話があるのは失敗したときだけだったので、私の電話に対しても皆が不安を感じたようです。しかし、私の一言で店長の声音は一気に変わり、少なからず刺激できたという手応えをつかみました。

 1日半電話をかけ続けて声がガラガラになったので、次からは電話会議を実施することにしました。全店舗にスピーカーフォンを設置して、2週間に1度、そこで熱いメッセージを発信していったのです。

 スピーカーフォンですから、店長だけでなく副店長、課長から現場のパートさんに至るまで、一斉に話を聞けます。社長の声など聞いたこともないという従業員が多いなか、「とにかく現場は頑張ってくれ!」というメッセージを熱い息遣いと共に発信したものですから、かなり驚かれました。

 そういうことから現場とのコミュニケーションを始めて、その後は店長名簿を常に持ち歩き、用事を見つけては携帯電話で彼らに連絡するようになりました。

 モチベーションを高めるには、給与、待遇、インセンティブシステムなど様々な方法がありますが、「誰かが見てくれている」というのが原点だと思います。そして、その誰かというのが、自分の尊敬する人だったり、自分がついて行きたいと思える人だったら、モチベーションは一気に高まるのではないでしょうか。