今月3日、米GMは傘下の独オペル売却を急きょ撤回、自力再建を表明した。7月の破綻に伴い、独・露政府を巻き込んだ大がかりな売却案が決まっていたにもかかわらず、である。

 「経営に失敗したGMに自力再建ができるはずがない」。独政府やオペル従業員は怒り心頭だ。

 国内雇用を守るために必死で金融支援をしてきた独政府は面目丸つぶれ。GM経営下でリストラをする場合、他国工場に比べ高コストの独工場は閉鎖の確率が高くなる。

 売却先は加マグナ(大手部品メーカー)と露ズベルバンク、露GAZ(自動車メーカー)の企業連合だった。

 これを機に自国の自動車産業立て直しを狙っていたプーチン・露首相は「米国の身勝手なやり方を学んだ。今後、教訓にしなければいけない」と皮肉交じりに怒りをあらわにした。

 GMが売却を撤回した理由は、10月の米国での販売が21ヵ月ぶりに前年比プラスに転じ、中国に至っては今年1~9月の販売台数が129万台(前年同期比55%増)と過去最高を記録するなど、経営環境が改善するなかで、世界戦略におけるオペルの重要性を見直したからだ。

 オペルはGMにとって欧州の基盤であり、販売全体の2割を担う。そしてその中・小型車技術は「中長期的な成長においてGMが最も必要としているもの」(寺澤聡子・みずほ証券シニアクレジットアナリスト)にほかならない。

 しかし、いくら債務整理をして身軽になり、また、直近の販売状況が改善されてきているとはいえ、自力再建の課題は山積みだ。

 今月末にも独政府につなぎ融資15億ユーロを返済しなければならないし、試算したオペル再建コスト30億ユーロの調達先もまだ決まっていない。

 オペルブランドが市場で正当な価値を取り戻すには、当分時間がかかりそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)

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