毎年、クリスマスシーズンになるとユニークな論文で楽しませてくれる「英国医学雑誌(BMJ)」。時期はずれたが、英オックスフォード大学の研究者らによる1本をご紹介する。

 発端は「1日1個のリンゴで医者いらず」というウェールズ地方に古くから伝わることわざは本当か? というもの。現代病の脂質異常症を治療すべく、世界中で4000万人以上に処方されている「スタチン系薬剤」と、「1日1個のリンゴ」の効果を比較してみたのである。

 研究者らは、複数の研究結果から薬剤の未摂取群と摂取群双方の膨大なデータをピックアップ。それを基に、50歳以上で、スタチン系薬剤を飲んだほうがいいと診断されるすべての人に薬が処方された場合と、すべての50歳以上人口が薬ではなく「1日1個のリンゴ」を実践した場合を比較した。摂取カロリー量は統一した。

 その結果、スタチン系薬剤に頼った場合は、年間の血管系死亡(心筋梗塞や脳卒中による死亡)数が9400例減少する一方、リンゴ処方モデルでは、8500例の減少にとどまった。

 ただし、である。スタチン系薬剤を50歳以上の全国民に処方すると仮定した場合、薬の副作用として1万件を超える糖尿病の発症を同時に招く、という恐るべき予想も導き出されたのだ。

 対象年齢を30歳以上に引き下げても、リンゴまたはスタチン系薬剤の処方は血管死率をそれぞれ3%ほど下げるが、薬に頼った場合、副作用数が2倍に増加する。糖尿病は脂質異常症と並ぶ心血管死の高リスク要因だ。果たして薬の服用は、メリットとデメリットのどちらが大きいのだろう。

 研究者は慎重に「現在、スタチン系薬剤を処方されている人は薬をリンゴに置き換えるべきではない」としているが、一方で「ことわざは正しかった。より多く果物を食べることで、メリットを享受できる」としている。ちなみに、試験時のリンゴ1個は100gほど。日本で売られているリンゴなら2分の1個で済む。今年の生活改善ポイントは「1日半個のリンゴで医者いらず」である。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド