ベンチャー企業の経営者として「経営」の奥深さを体感
あらためまして、立命館大学経営学部国際経営学科准教授の琴坂将広と申します。
私は、日本に生まれ、日本で育ちました。いわゆる帰国子女ではありません。しかし、海外の経験が数回の旅行以外になかったときから、私は「国際」という言葉にとても強い興味を持っていました。
国の境を越えること。自分が所属する集合体とは異なる集合体に触れること。それは、日本という国に生まれ育つことによって、暗黙的に「当然」と理解していることが成り立たない場所に対する興味だと言えます。
経営に触れる最初のきっかけとなったのは、大学に入学するより以前の話。それは、友人が立ち上げ、私自身も運営に参加したあるウェブサービスでした。黎明期に立ち上げたサービスは急速に拡大したものの、残念ながら、十分な経営の知識がなかった私たちは、その急激な成長がもたらした経営課題を解決できず、このサービスを閉鎖することとなります。
その後、大学に入学した私は、最初は研究に没頭しようと考えていました。しかし、魅力的で優秀な友人たちとの出会いにより、またしても事業運営の世界に引き込まれていきました。そして、さらなる偶然と必然が積み重なり、結局は情報技術と小売という領域で2つの会社の代表取締役、1つの会社の取締役として「経営」という行為を実体験することになりました。
ただし、そのときに経験したのは、経営戦略とは無縁とも言える世界です。
戦略がなかったわけではありません。しかし、極小のベンチャー企業の経営者はその時間の大半を実務、つまり現場の作業に費やします。代表取締役とは名ばかりで、その実態は受託営業本部長や店舗立ち上げの担当者でしたが、刺激的で激動の毎日でした。
システム開発会社の一覧を手に入れると、仕事を取るために、片っ端から電話をかけました。逃げてしまった外注先の穴を埋めようと、休息も睡眠も取らずに製品を完成させたこともあります。実店舗のレジスターを叩いたり、お客さまに店頭で商品を売り込んだのは、いま思えば貴重な経験でした。