経営者、コンサルタント、学者…3つの視点で経営学を読み解く
大学時代、自分で事業を行っていたときの私は、関わっている目の前の事業にとっての最適解を追い求めていました。また、マッキンゼーのコンサルタントとして働いていたときの私は、特定の事業領域において、特定のある時期に、特定の企業が取るべき国際経営戦略の最適解を探し求めていました。
しかし、オックスフォード大学では、できるだけ個別の事業領域に関わらず、また時期を問わず、一般的な企業が取ることができる、またはすでに取っている解決策の分布を議論するようになりました。学問を行うということ、時空を超えても変わることのない、普遍的な説明を追い求めるなかで模索したものは、必ずしも、特定の企業の最適解を指し示すものではありませんでした。
実業としての経営に貢献すること、そして学問としての経営に貢献すること、この2つは密接に関わりつつも、異なるものであると確信するに至ったのです。
経営学は、実務の最前線で戦う方々に価値ある知見を提供しながらも、同時に、科学としての進化のために普遍的な価値を探求するという困難な挑戦に直面しています。もちろん、その挑戦が難しいからこそ、経営学がおもしろいのはたしかです。
また、人類の現実の最前線で、現実をそのままの事実として捉えて理解することを求める学問です。人間社会に対する究極的な関心がなければ、根源的な価値の提供にはつながりません。しかし、逆に言うと、ある高みに達することができれば、これ以上ない洞察を得られる学問領域である、と私は信じています。
冒頭でも述べたように、今の私は、「実務」と「研究」の中間地点にいるように感じています。従って、中間地点に立ち、中間地点にいるからこそできること、そこから見えてきたものをお伝えいたします。拙著のタイトルである『領域を超える経営学』とは、その見えてきたものを指し示す言葉として、私の思考のなかから自然と湧き出てきた言葉なのです。
さて、初回ということで少し真面目に書きましたが、次回以降は、普段はあまり書かないような小話を半分脱力系で、ひっそりとお届けできればと考えています。小難しい話を小難しいままに書くことは簡単です。しかし、そうはせずに、できるだけ簡素に、おもしろいと思っていただける要素を入れ込んでご説明できればと願うばかりです。
本連載は全15回の予定です。よろしければ最後までお付き合いください。
経営学は、国家の領域、そして学問の領域を超える。第2回は、著者がオックスフォード大学時代に熱中したヨットセーリングなどを素材として、「領域を超える」の意味が語られる。次回更新は、2月25日(火)を予定。
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『領域を超える経営学——グローバル経営の本質を「知の系譜」で読み解く』(琴坂将広 著)
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