世界を飛び回ったマッキンゼー時代、そしてオックスフォード大学へ

 この3社は、当時の自分にとっては十分な収益を挙げていたとはいえ、私がいた当時は中小企業とも呼べない小さな会社でした。しかし、自分自身で事業を運営したことは、経営学者としての私の基盤を作っているといっても過言ではありません。

 一方で、実際に経営という行為を体験するなかで、経営者としての自分の成長に大きな限界を感じていたことも事実です。自分に足りないものは何か。それは、日本だけではなく、広く世界を知ることだと思うに至り、また自分を鍛え直すためにも、私はマッキンゼーという組織で働くことを選びます。

 とにかく国境を越え、できるだけ多くの地域で、多様な業種を経験しなければならない。

 マッキンゼーに入社してからの私は、通信、業務用電子機器、運輸、医薬品、携帯電子機器、飲料、食品、化学製品、情報メディア、産業政策など、多様な事業分野の戦略立案とその実行支援を担当することにしました。東京とドイツのフランクフルトに拠点を置き、北欧、西欧、中東、東南アジア、東アジアの9ヵ国の支社に短期出向することで、現地の「プロ」と共に働き、そして成果を出す機会を得られたことは貴重な経験です。

 また、1つの国に閉じない複数の国と地域を対象とした国際的な戦略課題を主に扱ったことと、休日を活用して精力的に世界各地を回ったことで、記録に残っている限りでも世界60ヵ国200都市以上を巡る機会に恵まれました。日米欧だけではなく、中東や中国、韓国、東南アジア、アフリカに至るまでの世界を直に知ることができたのは、大きな幸運だったと思います。

 そうして、各国の企業や政府、ヨーロッパや東南アジアを起源とする多くの多国籍企業の経営者と討論する機会をいただくなか、ある疑問がわき上がってくることに気づきました。

「これだけ多様な国と地域を経営するための、普遍的で最適な解は存在するのか」

 この疑問を抱えたままコンサルタントとして進むのか、それとも、コンサルティングのなかで生まれた未解決の疑問に立ち向かうべきなのか。悩みに悩んだすえ、私はその解を探す道を選び、マッキンゼーを退職して、オックスフォード大学のサィードビジネススクールで研究の道を志すことを決意します。

 そして、2009年に経営研究の優等修士号(MSc. In Management Research with Distinction)を取得し、博士課程に進学。授業や研究の助手をしながらさらに研究活動を進め、2013年に経営学博士号(D.Phil. in Management Studies)を取得しました。現在は日本に帰国し、立命館大学経営学部国際経営学科で多国籍企業論を専門とする准教授を拝命しています。