エネルギー動乱空撮した福島第一原発 Photo:PIXTA

原子力発電所のテロ対策施設整備に5年間の猶予期間を設ける制度を巡り、期間の延長を求める原発事業者と原子力規制委員会の間で議論が紛糾している。同じ議題が以前にも俎上に載せられたものの規制委は要望を認めなかったが、切羽詰まった大手電力らが再び規制委に泣きついた。猶予期間を過ぎた場合、原発は稼働停止することになるため原発事業者らは必死に懇願するが、原子力規制委は期間延長に対して慎重な姿勢を示す。2度目の議論の結果が今後の原子力事業の転換となる可能性があり、長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、原発事業者の主張と規制委の反応を解説する。(ダイヤモンド編集部 鈴木文也)

認可から5年の猶予期間も
工期に悩む原発事業者

「(経過措置は)規制当局と事業者との信頼関係だけではなく、安全を最優先する事業者と国民との約束でもある。そこを事業者にも重く受け止めてほしい」。2025年10月22日、原子力規制委員会後の定例会見で山中伸介委員長は記者からの問いかけにこう答えた。

 この日行われた委員会の議題の中心となったのは「特定重大事故等対処施設」の制度変更についてだ。

 この制度は東日本大震災後に設けられた新規制基準の一つで、故意に航空機を衝突させるなどのテロが発生した際、遠隔操作で原子炉を冷却するなどバックアップを行う対策施設を整備するというもの。故に、この施設は原子炉建屋から十分に離れた場所に設置することが想定されており、中央制御室の代わりとなる緊急時制御室や、原子炉格納容器内への注水設備などの設置が義務付けられている。

 また、この施設を整備する期間は5年間とされており、その期間を過ぎれば原発の稼働を停止することになる。もっとも当初は、新規制基準が施行された13年7月から5年後の18年7月までを猶予期間としていたが、適合性審査が想定より長期化したことを背景に、16年には工事計画の認可を受けてから5年間を猶予期間にするとルールを変更し、実質的な期限が延びた。とはいえ、期間内に整備が完了できなかった原発事業者も複数あった。

 過去には、関西電力美浜原発3号機や四国電力伊方原発3号機などが期限に間に合わず稼働を停止。直近では、東北電力が25年10月に会見を行い、女川原発2号機は期限を迎える26年12月にテロ対策施設の整備が間に合わないために、期限いっぱいで原発を停止すると発表。期限から1年半以上先の28年8月の完了を目指すとしている。

 工期の厳しさに原発事業者らは猶予期間の延長を要望するも、規制委は難色を示す。次ページでは、原発事業者の主張と規制委の対応について詳報する。