幸せな毎日を送る女性起業家の本音

 幸せな結婚、家庭に仕事。すべてを手に入れるのは可能だというアンさん。しかしそれは完璧ではなく、“ごちゃごちゃした生活”だと教えてくれました。

「それは子どもたちが飛びついてくるので、いつも体にアザができる人生。それは、妊娠8ヵ月でステージに立ち観客に向かって45分間、環境大臣がいる前で、もどさずに話ができるかという状況に置かれる人生。もっと寝るべきなのに、寝られない人生。それでも、自分のやっていることが重要なことだと感じられる人生です」

 福祉制度の整ったデンマークでは、出産は無料で、出産後は合計64週の「両親休暇」を得ることができます。これまでの記事にも書きましたが、デンマーク人が母国で暮らすというのは、結婚、家庭、仕事のスタイルにおいて選択肢が広く、必要なときに必要なものが得られる快適な生活を送れることを意味します。

 しかし、アンさんの話を聞くと、そんなデンマークでも、ビジネスで成功するのは容易いことではないそうです。

「高額の税金を払っているので、デンマークはできるだけたくさんの人が成功するのを快く見届ける国です。しかし、それが人々を中流階級に置いているので、デンマークでは、本当にお金持ちになるというのは大変なことです。逆に、貧しくなるのも大変です。

 これは政治的な観点からは正しくはない表現だとは思いますが、がけっぷちに立つような人生を選ぶのは、本当にそれを求めているという気持ちがない限り実現しません。すべてに反抗して、暗闇の中に生きるという考えがなければいけません。なぜならデンマークには、素晴らしい人生を生きるためのたくさんのチャンスがあるからです。

 だからこそ、デンマークにおいて女性がビジネスで成功するには、自分には価値があると信じなければいけません。また少し横柄に振る舞うことも必要です。デンマークには、“ジャンテロウ”という模範とする精神があります。自分が何かすごい人間だと信じるべきではないという考えです。

 もし他の人が成功するには難しいやり方で成功したら、それはアメリカの自由主義の嫌な生き方だと私たちは呼びます。私たちは、可もなく不可もないといいましょうか、とても社会主義的な生き方を模索しているからです。

 どこでもタブーというのはあると思いますが、デンマークではもっと自分たちはできる、輝けると思っても、実際に行動に移すことをためらう傾向があります。

 なぜなら、それを実現するには大変な努力が必要だからです。デンマークで成功するために、それほど一生懸命働く必要はあまりありません。快適な生活を手に入れることは可能です。それはそれでよいことですが、わたしの人生の目的ではないのです」

 デンマークでは、給料をたくさん得た人は累進課税で多くの税金を納め、低収入の人は低収入なりに税金を納めています。それから社会の中で一番必要とする人に必要な社会福祉サービスに変えて配分されるため、みんなが中流階級に属するのです。

第2回目の記事でジャンテロウが、デンマーク人にとって大きな夢を描くときに足枷になっていることが多いのではないかと書きましたが、どうやら本当にそういった感覚があるようです。こうした考えが浸透している母国を離れて、海外を拠点に活躍する人もいます。