幸せな人生を送るための秘密

 トカさんは人間らしく振る舞うことの大切さを教えてくれました。しかし、それが具体的には一体どういうことなのか、どうすればよいのでしょうかと聞くと、こんな答えがかえってきました。

「まず覚えておくのは、自分たちが母親のお腹から生まれてきて、何十年か生きて、死ぬという事実。それが誰であっても関係はありません。それが私たちの旅なのです。それが人間の目的なのです。何を信じて、どんな外見であったとしても、です。

 つぎに人間は誰もが上でも下でもないということを思い出せるように、日々の生活で訓練することです。最後に、自分のアイデンティティーに固執しすぎないことです。マネージャーであるとか、この車を売る従業員だとか、息子を持つ父親だとか、家で料理をする母親だとか。これらは、シャツのようなものです。人生の中で私はこれらのシャツを何枚も持っているのです。

 どのアイデンティティー、役割を担っていたとしても、それぞれにあまり惚れすぎないことです。例えば私の母親は私が末っ子だからといって、末っ子らしく、子どもらしく扱うことはありませんでした。今はそれにすごく感謝しているのです」

 幸せな人生を歩むために、誰かと比較してより幸せになる方法を考えるのは、必ずしもベストとは言えないやり方です。それがロールモデルであっても、身近な人であっても、比べたところで足りないものを見つめて得ようとするのは、なかなか苦しい道のりです。

 憧れる人の立場や性別ではなく、人として見つめて背景を理解すること、輝かしいキャリアや幸福な生活の裏には、努力と知恵があることを理解することが大切です。

 また、これは人だけでなく、憧れる社会や国に対しても同じです。デンマークは幸福の国として知られていますが、そこに至るまでの背景や現実も深く理解することが、自分たちの国や社会を幸福にする上で不可欠だと感じています。

「The myths of happiness」の著者のソニア・リュボミアスキー氏は、より幸せに暮らし成功するには、意義のある目標を見つけ懸命に努力することが必要ですが、自分の夢を理解することが幸せになるための魔法の法則ではないと主張します。

 何かを達成したとき、幸福感はあってもそれは長く続くものではありません。ただし、目標に向かってもがいているときでさえも、楽しむことができれば、喜びを感じ、それがスキルの向上や、成長、学びの可能性や新しいチャンスを生み出すことなのです。

 憧れる目標だけにフォーカスするのではなく、そこに至るまでのプロセスを楽しもうという精神があれば、自分が死んだときの天国のウェルカムパーティーについて考える課題も、もっと楽しい作業になるに違いありません。

※この連載は一旦休止いたします。


大本綾(おおもと・あや)

1985年生まれ。立命館大学産業社会学部を卒業後、WPPグループの広告会社であるグレイワールドワイドに入社。大手消費材メーカーのブランド戦略、コミュニケーション開発に携わる。プライベートでは、TEDxTokyo yz、TEDxTokyoのイベント企画、運営に携わる。2012年4月にビル&メリンダ・ゲイツ財団とのパートナーシップによりベルリンで開催されたTEDxChangeのサテライトイベント、TEDxTokyoChangeではプロジェクトリーダーを務めた。デンマークのビジネスデザインスクール、The KaosPilotsに初の日本人留学生として受け入れられ、2012年8月から留学中。
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