海外移住を決めたデンマーク人の女性起業家

 2012年に、デンマークの35歳以下のトップ100人起業家の内の一人に選ばれたアン・ケア・リシアツさんは、デンマーク出身ですが、現在はドイツのベルリンに移住して働いています。彼女はカオスパイロットを卒業後、コペンハーゲンのブランド戦略の会社でCSRのコンサルタントとして働き、日本の国際基督教大学に平和学の博士号取得のため2年間留学していました。

 私がカオスパイロットに留学しようと決めたのも、日本に留学中の彼女との出会いがきっかけです。アンさんは2006年に「We have a dream」(後にKids have a dreamに改名)という組織を立ち上げ、子どもたちや若者が自分の夢を絵に描き、そこに辿り着くために何が必要かを考えるきっかけを与えるワークショップをデザインしました。夢を現実性のあるものに変えるこのワークショップは世界各地で開かれ、これまでに24ヵ国で、3500人もの子どもたちが参加しました。

 ビジネスとクリエイティブなマインドの両方をバランスよく持ち合わせ、情熱的で優しく思いやりのあるアンさんは、私にとってのロールモデルです。今でも時々連絡を取っている彼女に、デンマークに戻ることは考えなかった? と聞いてみました。

「もちろん考えたけれど、真剣には考えなかった。海外に住んだ経験もあるし、デンマークにいるときは、確かに他人から見ると私はデンマーク人に見えるけれど、自分のことはデンマーク人だとは思っていないわ。

 私のアイデンティティーは外国人のようなものだと思うの。デンマークに帰るというのは、不思議な感覚。デンマーク人は、ヒュッゲ(暖かい、居心地の良い雰囲気を表す)という考えがあって、陽気で地に足がついていて、現実的だと思う。

 とてもフレンドリーだけど、時々デンマークが世界の中心にあるかのような、多くの人が内気な性格で世界観が少し限定されているような気がするの。だからこそ、そこに属していないような気がする。私は自分をグローバルシティズンだと思っている。だから結局はどこに住んでもいいと思っているのよ」

 グローバルシティズンとは、世界が自分のホームだと感じ、幸せだと感じること。ホームとは、外の環境に見つけるのではなく、自分の内部に見つけること、と説明するアンさん。そのような生き方は自由ではあるけれど、同時に厳しい生き方でもあると言います。

 特に母国を離れて、数ヵ国で暮らした経験のあるアンさんは「自分のルーツがなくならないの?」と周りの人によく聞かれるそうです。それに対して、こう答えるそうです。

「木は、根が何本もあるほうが安定する。1本しか根がないと、倒れやすくなってしまう。ルーツというのは、住んでいる場所とは関係ないの。

 だって私の一部のルーツは日本にあるから。つまり、日本で何かプロジェクトがあって手助けできるのであれば、人を紹介できるなら、助けたいと思う。私は日本人ではないけれど、日本には近いものを感じるから。それは、南アフリカだって、他の場所にも感じるのよ」

 競争が激しいグローバル世界に生き残り、豊かな人生を送る働き方を実現するためには、自分のルーツの定義を考え直すことにヒントがありそうです。

 しかし女性の幸せな働き方を考えるときに、女性だけに注目するのではなく、男性の在り方も一緒に考える必要があると感じました。日本では育児に積極的に関わり、時には育児休暇もとる男性を称した「イクメン」が2010年の流行語大賞にランクインしましたが、デンマークでは、男性の家庭と職場における役割がどう見られているのでしょう。ある人に聞いてみました。