世界で最も刺激的なビジネスデザインスクールといわれる、デンマークの「カオスパイロット」。その授業であまりに哲学な問題が出題された。それに答えるには、人生の意味や幸福の感じ方をもう一度とらえ直す必要があった。大好評の「留学ルポ」連載の第9回は、デンマーク人の考える幸福の哲学。
すべてを手に入れることは可能?
デンマーク人女性起業家の幸福な人生
「悪いニュースがあります。最近、あなたは亡くなりました。良いニュースは、あなたが亡くなったとき、天国でウェルカムパーティーが開かれることになりました。あなたの人生の内容に見合ったパーティーです。
どんなパーティーになりますか? 誰がそこにいたら嬉しいと思いますか? なぜゲストは天国で開催されるあなたの盛大なパーティーに招かれて嬉しいと思うのでしょうか?」
世界一刺激的なビジネススクール、カオスパイロットでのある授業で、こんな質問が与えられました。起業家精神を育てようとするとき、こうした質問は自分という人間を肯定する感覚を養うきっかけを与え、大きなビジョンを描く機会を作ります。
早速、北欧のチームメイトたちが楽しそうに笑いながら天国の自分のパーティープランを考え始めました。一方、私はどうしてもこの質問に答えることができませんでした。私は、できていないことに目を向けて、自分を律して成長することが大事だと思うタイプの人間です。
まだ達成していないこと、十分でないことが多いのに、祝福に値すると思えずせっかく来てくれた人にとても申し訳なく思いました。ゲストの姿を思い浮かべると思わず涙が出そうなるので、ぐっとこらえなければいけません。
このとき、講師として課題を出したのは、デンマーク人の女性起業家のアン・スカーレ・ニールセンさんです。アンさんは、コペンハーゲン・インスティチュート・オブ・フューチャースタディーでキャリアを積んだ後、未来研究のみならずイノベーションに繋がる人材育成の必要性を感じ、フューチャーナビゲーターという会社を2003年に立ち上げました。
政治、ジャーナリズム、教育の3点を根本的に変えることを目的にし、例えば政治では、新しい首相を選ぶときなどにSNSやテレビをより有効的に使えるような新しい仕組みづくりを目指しています。政治家たちが、日常生活の中でどのようなパフォーマンスをしているのかがよくわかる機会を作ることが必要だと考えているそうです。
新しい視点を持ち、様々なプロジェクトをこなすアンさん。目標は、死ぬまでにノーベル平和賞を受賞することだそうです。そんな彼女には愛する夫と4歳~9歳の4人の息子がいて、妻でもあり母親でもあります。とても幸せそうに結婚、家庭、仕事について話をしてくれました。
女性としての幸せをすべて手に入れたように見えたアンさんは、実は私に脅威を与える存在でした。天国のパーティーのゲストに申し訳なく感じたのは、彼女に比べて、自分があまりに多くのこと手にしていないと思えたからです。
それでもデンマークにおける女性の幸福な働き方について書くことを決めたとき、アンさんにまず話を聞こうと思いました。脅威に感じるほどの人からは、学ぶことが多いはずです。インタビューに快諾してくれた彼女は、幸せな人生の裏にある日常生活の様子を本音で語ってくれました。