労働組合から2014年春季労使交渉の要求書を受け取る日立製作所の御手洗尚樹常務(左)
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「この春闘は、組合員の生活改善はもとより日本経済のデフレ脱却に向けた、社会的責任を果たす重要なもの」(日立製作所労働組合)

 2月13日、日立製作所は労働組合から、2014年春季労使交渉の要求書を受け取った。内容は3点。定期昇給の維持と、賃金体系全体を底上げするベースアップ(ベア)月4000円、そして、年間賞与5.8カ月という要求だ。

 中でもベア要求に日立がどう答えるか、かつてないほど注目が集まっている。

 その理由は二つある。

 第一に、日立が今期、23年ぶりに過去最高益を達成する見通しであることだ。

 第二に、冒頭の労組の発言通り、現政権が掲げるデフレ脱却のためという理由で、賃金アップへの圧力が高まっていること。

 昨年10月に首相官邸で開かれた経営者、労働界代表との政労使会議においても安倍晋三首相からの要請があり、出席していた日立の川村隆会長が会議後、ベアについて「一つの選択肢」と発言したという経緯がある。

 こうしてベア容認の外堀が社内外から埋まりつつある日立だが、とはいえ、おいそれとうなずくわけにはいかない理由がある。

 CHRO(人事担当役員)を務める御手洗尚樹常務は本誌インタビューに対して、「従業員への収益の還元方法として、賞与もベアも一つの選択肢で、現時点では予断を持っていない」と述べた上で、「従業員の生活を第一に考えながら、経営へのインパクトも考えなければいけない」と答えた。

 ベアは賞与とは違い、定期的な給与の支払い増加になり、一度上げたら下げることは非常に難しい。ベア4000円で「残業代への跳ね返りなどを考慮して、日立製作所単体の組合員2万7000人で考えると、20億円弱」の負担増になる。もっとも、今の日立にとってそれは致命的な額ではない。むしろ問題は、既存の人事制度との関連だ。