声だけは、持って生まれたものとしか言いようがありません。骨格、筋肉、声帯によって人の声は予(あらかじ)め決まります。一方で、歌唱力は訓練によって鍛えられます。発声もそうです。でも、声だけは一生変わりません(村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」では、声を変えるために自らの舌にナイフを入れる場面がありました)。

 森山直太朗の声は母親・森山良子の最良のDNAが継承されたものです。しかも、父親であるジェームス滝もプロの歌手でした。直太朗・良子の親子デュオで歌う「さくら」には、筆舌に尽くし難い二重唱のチカラがあります。

直太朗の挑戦

 直太朗の声にして初めて「さくら」の旋律のチカラが存分に発揮されるのです。

 実は、森山直太朗は、あの森山良子の息子であることをできるだけ隠しておきたかったと言います。

 2001年にインディ系からデビュー盤「直太朗」(写真右)を出した時には、敢えて姓を名乗りませんでした。親の七光りは嫌だったのでしょう。芸能界には、親の威光を積極的に利用する人たちも多い中、己の力量だけで勝負しようとする姿勢は立派です。

 さて、森山直太朗にとって意味のあるチャレンジが一つあります。それは「さくら」を超えることです。彼は「さくら」発表から10年あまり、順調にアルバムを発表し続け、既にJポップの歴史に確固たる位置を占めています。心の奥深いところを慰撫し刺激する詩の世界も旋律美も声も健在です。最新作「自由の限界」(写真左)も独自の世界が眩しいです。直太朗も今年で38歳。そろそろ、次の大傑作を期待したいところです。

(音楽愛好家・小栗勘太郎)