安倍政権の構造改革は
医療分野と密接に関係
「三本目の矢」の話は聞き飽きた、と思う人は多いだろう。しかし、日本経済の立て直しは、ここからが正念場だから、政権運営をきちんと注視しておかなくてはいけない。構造改革の核心は、本稿で見ていく医療分野と密接に関係しており、それを改革せずにアベノミクスは成功しないと考えられる。
まず、将来の国民医療費は現在の38.4兆円(2012年度)が、給付費ベースで2025年度には54.0兆円へと急増する見通しである(図表1参照)。
この2025年度という時期は、団塊世代が後期高齢者(75歳以上)になって、医療費負担が本格的に増えるタイミングである。当然、国庫負担は増加して、政府の財政負担も巨大になる。わが国の財政問題は、労働力人口が減少する中で、高齢化の社会的コストに耐え切れるかという問題だ、と言い換えられる。
医療費の増大は、現役世代にも健康保険料率の引き上げというかたちで割り当てられる。企業の中には、健康保険料などの事業主負担の増加を嫌気して、社会保険料負担を軽減するために、労働力を正社員から非正規労働へと代替する先が少なくなかった。
ところが、労働力を非正規にシフトすると、日本全体の総労働時間は短くなり、マクロの雇用者所得も低下して、所得税収は低下してしまう。財政健全化にとって、高齢化の重みは、歳出増と歳入減の双方向で足枷になっている。
ここまでの説明で、財政赤字拡大も労働市場の変容も共に、高齢化が効いていることがわかったであろう。非正規化の対策として、限定正社員という仕組みをつくってもなくならない。社会保険料負担が増えれば、ますます正社員を最小限に絞り込もうとするだろう。