当然、売り上げはゼロ。一見、事業としては無意味にも思えるが、自分が考えたサービスにニーズのあることを実感でき嬉しかった。事業的にはまだ、「どのくらい注文がくるか試してみたかった」という段階だから、リスクを取らずマーケティング調査をしていたことになる。実際に売上が立つか不明確な状態で大きな金額の投資を行うことを避けたわけだ。

 顧客は少しずつ増え、自社で仕入れしたいと考えたが、書籍の流通市場は他の商品と異なり独特で、メーカーに当たる出版社と、小売りに当たる書店の間を「出版取次」と呼ばれる、卸売業者が仲介する。絵本ナビが自社で在庫を抱えて絵本を売るためには「出版取次に口座を開く必要があったのですが、新しいネットショップには信用がなくて口座も開けませんでした」。壁は幾つも立ちはだかったが模索しながら、一歩ずつ進んでいった。

 絵本の関連グッズも扱ってみたところ「はらぺこあおむし」に関するものは売れることが分かってきた。そのうち、出版取次を使えるようになり、ファクスで本を注文し現金で支払う形で仕入れができるようになった。起業から約3年を経た2004年には、浜松の物流センターを借りて本格的に絵本と関連グッズの物販に乗り出す。また、同じ年にオールアバウトの「スーパーおすすめサイト大賞」に選ばれ、注目を集めるようになった。

 顧客から寄せられる声に、事業の意義や手ごたえを感じていたものの、資金面では苦しい時期が続いた。サイトの利用者は着々と増えていたが、収益化に時間がかかっていた。そうした矢先の2005年。絵本ナビはベネッセ・コーポレーションと双日の出資を受けることが出来、それまで有限会社だったものを株式会社とした。この時、登録会員は1万人、ユーザー数万人だった。

 翌、2006年には更に一社、ベンチャー・キャピタルの出資が入り、出版取次の日本出版販売とも資本業務提携してネット書店用に膨大な在庫を揃えた物流センターを使えるようになり、事業が飛躍する体制が整う。これを機に、会社は国立の木造アパートから、代々木のオフィスビルに移り、家賃7倍、スタッフ数4倍と拡大した。ところが「売り上げが伸びるのに思った以上に時間がかかった」。増資による資金で財政を補いながら事業拡大のチャレンジを続けるさなか、ダブルパンチのように2008年、リーマン・ショックを迎える。

 外部からの資金調達が一切ストップし、財政面で窮地に陥った。この時期のことを、金柿は「サッカーの試合にたとえるならロスタイムに2点ビハインドの状態」と称する。

 普通なら「もう終わった」と考えてもおかしくない状態。それなのにあきらめなかったのは、なぜか。「サイトのユーザー数は順調に増えていて、ユーザーからの評価も高かった。あとは経営の問題なんです。ロスタイムで2点負けている状態は、やるべきことを絞り込んで集中してゴールを取りにいくしかありません。このピンチを乗り越えることで、自分も会社も大きく成長できると確信していました」。