B・J・パインⅡとJ・H・ギルモアは、著書The Experience Economy(『〔新訳〕経験経済』ダイヤモンド社)において、顧客にとっての「エクスペリエンス(経験・体験)」という新たな経済価値を提唱しました。この考えによると、顧客にとっての価値は、1)コモディティ、2)製品、3)サービス、4)エクスペリエンスの順に高くなります。

1杯1セントのコーヒーが
5ドルにまで上がるはなぜか

 たとえば、コーヒー1杯の価格は、コーヒー豆というコモディティの場合、カップ1杯に換算すると1~2セントにしかなりません。それを加工業者が豆を挽いてパッケージングし、製品としてスーパーで売るときには、カップ1杯に換算すると、5~25セントで売れます。さらに、その豆を使って淹れたコーヒーがごく普通のレストランや街角の喫茶店やバーで提供されるときには、1杯につき50セント~1ドルとなります。

 しかし、同じコーヒーでも五つ星の高級レストランやエスプレッソ・バーだと、顧客は一杯につき2~5ドル払うのです。注文するのも淹れるのも飲むのも、すべて心ときめく雰囲気や舞台のセットのような空間の中で行われるからです(『〔新訳〕経験経済』ダイヤモンド社より)。

 現代はモノ余りの時代であり、すぐに競合商品が互いに真似しあい、似たような仕様になります。そして、商品差別化の猶予時間がどんどん短くなり、その結果、最終的には価格競争になり、体力勝負に陥ってしまいます。そうした商品はすぐにコモディティ化し、激しい価格競争にさらされることになります。

 こうした競争から脱却するための1つの手段が「エクスペリエンス」という経済価値を中心に据えた「エクスペリエンス・ビジネス」なのです。

 『〔新訳〕経験経済』でも述べられているとおり、アメリカや日本のような経済成熟国では、さまざまな体験機会を顧客に提供することで顧客にとっての価値を高める例が増えています。

 団塊・シニア世代向けにも、すでにエクスペリエンス・ビジネスの例は多く存在します。