日本銀行が異次元緩和策を導入して1年が経過した。中曽宏副総裁の独占インタビュー(特別レポート第232回)に続き、今回は日銀ウオッチャーによる評価と追加緩和予想をお送りする。
「政治と経済の双方の動向を前提とすると、早過ぎず遅過ぎず、好適な時期を捉えて実施された政策であったように思う」
1年前に日本銀行が打ち出した「量的・質的金融緩和」を振り返って、こう評価するのは、野村総合研究所の井上哲也・金融ITイノベーション研究部長だ。
元財務官の黒田東彦氏が日銀総裁に就任したのが2013年3月19日。それからわずか2週間後の4月4日、間髪を入れず最初の金融政策決定会合で、日銀は市中への資金供給量(マネタリーベース)を2年で2倍にするという、まさにこれまでとは次元の異なる大規模な金融緩和策を導入した。
それだけに、強力な金融緩和を求めていた安倍晋三首相は同日、「見事に期待に応えていただいた」(テレビ番組のインタビュー)と大絶賛。株式・為替市場の反応を見ても、機を捉えた柔道の「一本」のごとく見事に決まったといえる。この政策が「円安をもたらし、これがきっかけで株高と景気回復の好循環が始まった」(菅野雅明・JPモルガン証券チーフエコノミスト)からだ。
もっとも、政策導入のタイミング、すなわち日銀が金融市場という相手の機微を理解した上で政策を打ち出した“柔道の達人”であったかどうかについては、懐疑的な見方が多い。
例えば森田長太郎・SMBC日興証券チーフ金利ストラテジストは、円安については欧州債務危機の収束に伴い、過度な円高が自律的に反転していく方向と、「異次元緩和発動のタイミングが偶然重なった面もある」と指摘する。
とはいえ、併せて森田氏が言うように、「経済政策にとっては強運も重要な要素の一つ」である。望むべきは、現在の緩やかな景気回復の基調が今後も途切れずに継続していくことだ。