そう切り出して沢井は、藤村君には繰り返しになるがとことわって、親会社の社長から受けた内示の内容をまず岡田に話した。
 それから7月1日の社長交替の挨拶のとき、現場巡回のとき、とりわけトイレに入ったときに受けた強いショックについて、感じたままを話した。

「つまり、私が言いたいことは、この会社は社員を大切にしていないということです。
 その結果、当社のトップ層は社員から信頼されていない。もっとはっきり言えば、社員から見放されている。

 かなり機械化されているとはいえ、鋳物業というのは労働集約型の事業です。とりわけ第一線作業員の職人的技能に支えられているところが大きい、と思います。
 その人たちにトップが見放されているようでは、黒字の会社でも赤字になってしまう。

 だから、私がやらなければならない第一の仕事は、トップと社員たちとの人間的な信頼感の回復というか、確立というか……」

「私も、そう思います。だいいち、現有設備、現有人員でという制約があるのですから、人間からしか手を打てないのです」

「うん、藤村君の言うとおりだ。これが昨日、おとといと2日間の私の印象です。今まで私がお話したことに、岡田さんはどう感じておいでですか」

 岡田はうつむいていた。何か、かなり強い感情に包まれている気配だった。やがて、静かに話し出した。