「まるで韓国を見ているようだな……」。ある電力会社の幹部は思わず、そうつぶやいた。

 4月30日、電力会社10社の2014年3月期決算が一斉に発表される中、北海道電力が500億円、九州電力が1000億円の優先株を発行すると発表した。引き受けるのは、政府が100%出資する日本政策投資銀行だ。

赤字電力に政投銀の巨額出資 <br />透けて見える三者三様の思惑最も審査が進んでいる九州電力川内原発。今夏の再稼働が予想されている
Photo:毎日新聞社/AFLO

 幹部の発言は、この出資劇を受けたもの。韓国では、電気料金を低く抑えるため、電力会社が巨額の赤字を計上し、政府が公的資金で補填するいびつな構図が知られている。

 政投銀の出資は、そのゆがんだ構図を想起させた。電気料金の値上げが相次ぐ中、公的な資金を投入することで、再値上げを回避するという意味合いが強いからだ。

「電気料金も安くならないし、先行きも不透明なのに、公的な金だけ投入される。あまり健全な市場ではないですよね」と別の電力関係者も苦笑する。

 背景にあるのは、原子力発電所再稼働の遅れだ。国内全48基の原発が停止する中、電力会社は10社のうち5社が3期連続の最終赤字に陥り、自己資本比率も大幅に低下している。原発は17基が安全審査を申請中だが、再稼働する時期の見通しが立っていない。

 今回の政投銀による出資は、あくまで一時的な運転資金を得るためのものにすぎない。原発停止という原因が解決されなければ、また財務が悪化し、再値上げの議論が本格化するのは時間の問題だ。