リスクは、社会が勝手につくったルールでしかない
白木 南さんの最初の大きな挑戦は、やはり金融業界からスポーツビジネスに転身しようと決められたときですか?
南 そうですね。そのとき、人生で初めて「リスク」という言葉を意識したかもしれません。
白木 確かに、人生のリスクって学生時代にはなかなか実感しませんものね。
南 同じ会社に居続けることを想定すると、サラリーもキャリアも、なんとなく未来の想像がつくじゃないですか。ロールモデルもいるし、5年後、10年後、20年後の姿が「見える」というか。初めてそのレールを踏み外すという選択を考えたとき、何も見えなくなってしまったわけです。ものすごく怖くなりましたね。
白木 その恐怖をどうやって乗り越えたんですか?
南 そのときは、やればできる、と思ってがむしゃらに(笑)。でも、実際挑戦してみて思うのは、普通のことを一生懸命やれば意外とできてしまう、ということ。とにかく、世の中にはがむしゃらにやる人が圧倒的に少ないだけ。リスクという言葉は、やらない人が集まった社会が勝手につくったルールでしかないんです。
白木 なるほど、やらない人にとってはそう見えるというだけなんですね。では、当時はとりあえず目をつむって恐怖を乗り越え、スポーツビジネスの世界に飛び込まれた、と。
南 最初はビジネスの世界に飛び込んだというより、あまりにもツテもアテもないので、ひたすら自分を営業していましたね。そうそう、営業と言えば、26歳のとき単身アメリカに渡りました。映画『マネーボール』のモデルにもなったメジャーリーグの球団、オークランド・アスレチックスのGMに会いに。
白木 スポーツビジネス経験ゼロ、しかも26歳の日本人がいきなりGMを狙うなんてすごいですよね。会って、どうされようとしていたんですか?
南 もちろん、「仕事をください」と直談判しようと思って。でも、当然アポなしだから、受付の女性に門前払いされてしまったんです。「お約束がございませんから」と取り付く島もなくて。こんなとき、白木さんならどうされますか?
白木 うーん……。アポイントを入れていないわけですから、帰るかもしれません。
南 いや、普通、帰りますよね。でも、僕は居座ったんです。受付の前で3時間以上。
白木 3時間以上も、ですか!