産業界を中心にグローバル人材の重要性が注目される一方で、日本人の海外留学者数は2004年以来減少の一途を辿っている。これは同じアジアで地理的・文化的条件が近く、グローバル競争の時代にあって主要なライバルと目される中国や韓国が、海外留学者数を増加させているのとは対照をなす。
こうしたなか、民間の資金を投入し、官民連携でグローバル人材を育成する日本初のプロジェクトとして発足したのが「トビタテ!留学JAPAN」だ。目指すのは、大学や学生も交えてALL JAPANでのグローバル人材育成コミュニティを形成し、新しい留学の仕組みと文化をつくり、2020年までに日本人留学生の数を倍増させること。
学生にとっては就職に有利になる体験・実践型の留学プログラムであり、企業にとってはグローバル展開に欠かせない優秀なグローバル人材を育成する画期的なプロジェクトといえる。この官民協働事業を率いる民間出身の船橋力氏に、プロジェクトの目的や概要、意気込みをうかがった。
海外に出て、当たり前に思っていた
日本のユニークさに気がつくようになった
文部科学省 官民協働海外留学創出プロジェクト プロジェクトディレクター。1994年、上智大学卒業後、伊藤忠商事株式会社入社し、ODAプロジェクトを手がける。2000年、株式会社ウィル・シード設立、代表取締役社長に就任し、企業と学校向けの体験型・参加型の教育プログラムを提供。2012年、同社取締役会長、学校法人河合塾顧問に就任。2009年、世界経済フォーラムのYoung Global Leaderに選出される。2011年、一般財団法人教育支援グローバル基金Beyond Tomorrow代表理事に、2012年NPO法人TABLE FOR TWO International理事に就任。
南 安倍総理からも応援メッセージをいただいている文部科学省の特命事業だとお伺いしていますが、まずは、船橋さん自身の海外やグローバルとの関わりについて教えてください。
船橋 最初に告白すると、今は日本が大好きなのですが、小さい頃は正直、あまり日本のことを好きではありませんでした。というのも、幼少期と高校生時代を南米で過ごし、大学卒業後の伊藤忠時代も1年ほどインドネシアに常駐する中で、海外はオープンで多様性を受け入れる文化があるのに対して、日本は閉鎖的な印象を受けたからです。むしろ、日本の良さに気づいたのはここ数年です。
南 日本を好きになったきっかけは何でしたか?
船橋 ダボス会議のヤング・グローバル・リーダーになったことがきっかけです。高校生時代、ブラジルで40ヵ国の人が集まるインターナショナルスクールに通っていたので、自分は国際人だと思っていました。でもダボス会議に参加して、世界はもっと広いことを知りました。ダボス会議には100ヵ国くらいの各国のリーダーが参加していて、より具体的にいろいろな国の人たちと話をするようになると、日本のユニークさに気がつくようになったんです。
日本人は真面目で勤勉で、優れた技術を持っている。食べ物も美味しいし、安全だし、震災復興の取り組み方も素晴らしいなど、当たり前に思っていたことが実はユニーク、つまり希少で特殊だということを自覚しました。ちょっと大げさかもしれませんが、世界平和を考えたときに、こういう日本人の思想が広がっていくことが大きな貢献になるんじゃないかとさえ思っています。