A係長はもやもやとした気分を抱えている。半年間うつで休職していた部下、Bくんが先月、職場に復帰したのだが、再び会社に来なくなってしまったのだ。
これはまったく予想外の展開だった。なぜなら事前の面談では、同席した主治医が「お元気になられましたよ」と太鼓判を押してくれたからだ。それでは、と以前のように仕事を任せたところ、いっこうに作業がはかどらない様子。おまけに大きなミスも続出した。そうこうするうちに、「すみませんが、調子が悪いのでまたしばらく休ませていただきます」というBくんからの電話が入ったのだ。
A係長の立場はますます苦しいものになった。部下のひとり、C子さんからは、「これ以上、Bくんの代わりはできません!私がうつになりそうです!」と責められ、課長からは「君がプレッシャーをかけたんじゃないの?」と白い目で見られ――。いまや「うつを呼ぶ男」と呼ばれるようになったA係長は、心の中で悲痛な叫びをあげていた。
「悪いのは俺じゃない!頼むから、戻るなら完全に治してから戻ってきてくれよ!」
誤解渦巻く
復帰後の職場
なぜこんなことが起こってしまうのか?「『会社力』がうつから救う!」の著者で、MDA(うつ・気分障害協会)の理事、山口律子氏に聞いた。
「A係長のようなケースは、けっしてめずらしくありません。うつ休職者のうちの多くが、うまく復職することができず、何度も再発や休職を繰り返しているのです」
悲劇の原因は、職場のうつを取り巻くさまざまな誤解にある、と山口氏。さて、その誤解とは……?
■誤解その1:症状さえおさまれば仕事はできる?
「 復職可”という主治医の診断は、けっして鵜呑みにできません。多くの場合、ここで主治医が言っているのは、あくまで『症状が治まった』というだけのこと。『社会復帰し、以前のように職業能力を発揮できるようになった』ということではないのです」
■誤解その2:会社では8時間労働すればいい?
「主治医が『簡単な作業をするだけなら、8時間労働に耐えられる』などと、お墨付きを出すケースがよく見られますが、これも間違い。実際には、きっかり8時間勤務という正社員は少ない。8時間プラス2時間の残業、そして往復の通勤時間の約2時間。合計12時間の拘束時間に週5日耐えねばならない、というのが今の多くのビジネスマンの現実ではないでしょうか」