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スマートフォンの理想と現実

新プログラミング言語発表とヘッドホン製造会社買収から読み解く「クラウド戦争」時代のアップルの戦略

クロサカタツヤ [株式会社 企/株式会社TNC 代表]
【第62回】 2014年6月6日
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 こうした動き自体は、アップルが突然切り開いたというものではない。すでに多くの事業者によって取り組まれていたものでもある。以前本連載で紹介した今年のモバイル・ワールド・コングレス(「中国勢の台頭と、急速にコモディティ化するスマートフォン――モバイル・ワールド・コングレス(MWC)2014レポート【前編】」参照)において、ノキアやソニーが周辺機器の取り組みを強化していることを伝えた。こうした「スマートフォンのさらに先へ」という動きは、すでに業界全体のトレンドといえる。

 これを機能的な関係として整理すると、クラウドは母港、スマートフォンは空母、その先にあるウェアラブルコンピューティング等のスマートデバイスは戦闘機、という関係にも見える。

 実際の作戦(サービス)を実現するのはスマートデバイスだが、それが自由かつ効率的に動き回るために、空母(スマートフォン)がよりインテリジェントになっていく。一方、空母は空母で、母港に置かれた司令部(クラウド内のサービス本体)の出先として、配置や稼働が最適化される。それらを一気通貫に制御するための指揮命令系統として、アップルはSwiftを開発した――このようなイメージだ。

 Beats買収も、考え方はまったく同じである。Beatsのヘッドフォンが戦闘機、iPhoneが空母、クラウドが母港の司令部、ということである。そして、Beatsのような周辺機器がスマートデバイス化していくとき、より自由な発想でサービス開発をするには、Swiftを使いこなすような「新しいエンジニア」を囲い込むのが得策だと、アップルは考えているのではないか。

 ただアップルが興味深いのは、Beatsのような周辺機器に、ファッション性も含めたブランド価値の必要性を大きく認めていること、すなわち「ライフスタイルの提案」に強く軸足を置こうとしていることである。確かに、人間が身につけるものである以上、ある程度のファッション性が求められるのは正しい。しかしブランド戦略が期待されたほど奏功しなければ、結果的には「高値づかみ」となる。

 また、前述したような新しいパラダイムが、本当に実現されるのかは、アップル自身もまだ懐疑的であることがうかがえる。というのも、WWDCで同時に発表されたiOS8の機能拡張には、端末が提供できるサービスの強化も含まれているからだ。これは彼らなりの戦略オプションといえる。

 どのような結果となるのか、まだ先は見えない。しかし、新たなパラダイムによる世界が作られ始めたことだけは、間違いなさそうである。

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クロサカタツヤ
[株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学特任准教授]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。16年より慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

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