100の会社に求婚されても幸せになれるとは限らない

河合 日本に帰ってきてとてもショックだったことは、リクルートスーツを着ている学生の姿でした。みんながまったく同じ、黒のスーツを着ていましたから。人と同じようになりたいという気持ちが不思議でした。外国だと逆ですよね。目立つこと、自分の個性を出さなければ就職に結びつきません

高橋 そう、「あなたのどこが特別なんだ?」と聞かれて、アピールしなければいけない。

河合 ないならないで、それこそ化粧をしてきれいに見せたり、洋服で着飾りますよね。日本は逆なんですよね。せっかく化粧をしても、みんなと同じ黒いリクルートスーツを着る。あの没個性のメンタリティは何を意味するんでしょうね。

高橋 日本の人事も、もちろん勉強していますし、とても考えている人たちなんですよ。だからこそ、それなりに特別なものを持っている人を採用したいと考えている人事もたくさんいます。その一方では、特別さをアピールするよりも、違うことによるマイナス点を付けられたくないという気持ちが学生側に強いように感じますね。

河合 企業によって、あの会社はリクルートスーツを着ていくとダメだ、という情報共有もされていると聞きました。本当に表面的なテクニックですよね。自分だったら、それでダメなら入りたくもないと思ってしまいます。

高橋 いまも覚えているんですけど、私の時代の就職活動の解禁日が1978年10月1日、4年生の10月でした。

河合 以前は遅かったんですね。

高橋 10月1日と言っても、それは会社説明会の解禁です。入社試験の解禁は、たしか11月1日だったかな。ところが、実際には10月1日の会社説明会、最初の説明会に行かないと第一志望だと思ってもらえない。

河合 そうなんですか。

高橋 インターネット上のエントリーなどできない時代です。物理的にその会場に行って、話を聞いて、受けるなら名前を書いてくる。すると電話が来て、面接に来てくださいという流れでした。ただ、どうやっても初日に行けるのは4社か5社が限界です。2日目からは、向こうからしても第二志望だとわかりますから、その時点で明らかに不利になります。

 つまり、エントリーシートを同じレベルで何枚も出せないわけです。最初から企業を絞り込まざるを得ない。ところが、いまは100社のエントリーシートを出せますよね。もし、自分の個性を出したことが裏目に出て「ダメだ」と言われた会社が10社あっても、痛くもないと思ってしまいます。なぜそれほど“バッテン”がつくことを怖がるのかな。就活でさらにおかしいと思うは、たくさんの会社から内定を貰ったほうが勝ち組みたいな状況です。

河合 あれもよくわかりませんよね。1社からいいものを貰えばいいと思います。

高橋 そう、就職と結婚は同じですよ。100人から求婚された人と、1人から求婚された人のどちらが幸せかというと、100人から求婚された人の全員が幸せになるかといえばそうではない。そういう人のほうがさ、だいたい人生はおかしくなるんだよね(笑)。

河合 考えるだけで、めんどうですよ。

高橋 そう、考えるだけでめんどうだから、1人しか来なかったら「これでいいか」と思ってしまう。そのほうが結果オーライかもしれません。就職も同じで、1社から好かれればいいんですよ。そう考えれば、個性を出すことは怖くない。

河合 それが最高の結果ですよね。自分の個性を肯定してくれる会社に入社するということが。

高橋 まして、いくつもエントリーシートを出せるようになったことで、昔よりもよっぽどリスクを取れるんですから。けど、何の特徴も出さずに、失点をしないで守りに入った面接をいくつかこなして、どこも採ってくれなければ、それはどんどん気持ちが落ち込んでいきますよね。

次回更新は6月25日(水曜日)を予定。


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