40代と20代の間に存在するキャリアの“ねじれ”

高橋 採用の話ともつながりますが、私は、様々な調査を通じていろいろな世代のキャリア観を知ったり、あるいは大学のキャリア教育に関わったりもしています。いま、キャリア形成に関して、若い世代と上の世代の“ねじれ”を感じます。

河合 ねじれ、とは何ですか?

高橋 いまの若い人たちは、自分でキャリアを築かなければならないという意識があり、それにプレッシャーを感じたり、どうしたらいいのかと悩んでいたりするんですね。しかし、彼らの先輩や上司として接しなければならない40代あるいは50代は、頭ではわかっていても、自分が若いころは何も考えてきていないから、結局、どうすればいいのかわからないんですよ。自分たちもそれを教えようがない。そこに“ねじれ”があると思います。

河合 そうですね。以前は、必死にがんばっていればきっと誰かが見てくれている、会社が自分のキャリアを作ってくれるという考えがあったと思います。

高橋 それには、良いところと悪いところ、両方があると思います。日本の企業、とくに大企業の人事部は、直属の上司に任せきりにせず、どういう人間が上司とうまくいかなくて潰されそうだ、としっかり見ています。一方で、人事部に任せすぎてしまうこともある。

河合 なるほど。私は海外の組織で働いていたので、人事部の力は弱く、直属の上司がすべてを決めるという人事慣習の中で働いてきました。国際機関でも人事部の力はとても弱いと思います。

高橋 それからもう1つ、私たち「21世紀キャリア研究会」で6000人以上のアンケート調査を行いました。日本の大手企業の20代~50代に「あなたにとって仕事とは何ですか?」という質問をすると、「やりがい」「社会貢献」「成長」など、その答えはいろいろです。

 ただ、どんな答えであっても、全体的に最も点数が低いのは40代なんですよ。「あなたにとって仕事とは何ですか?」と聞かれても、「食わなければいけないから、やらなければいけないから。それ以外って言われてもね」となる。50代のほうが、たとえば「後輩を育てる」などわずかでも前向きな答えがあります。40代が一番希薄です。

河合 そうなんですか。その理由は?

高橋 私はそれを「バブル入社問題」と呼んでいます。いわゆるバブル入社組なので、自分でキャリアをこうしたいと真剣に考えずに、いくらでも内定が取れて、ほいほいっと入社して、そのままやって来た部分がある。でも、ここから先の将来、そのままでは厳しいですよね。

河合 バブル崩壊までを経験しているにもかかわらず、キャリア意識が低いのは驚きます。

高橋 会社が用意してくれたキャリアパスにしたがって管理職になれるのは、一部の人だけです。だからといって、グループ会社や取引先にうまいことソフトランディングさせてくれるかというと、いまはそんな甘い時代ではないこともわかってきているわけです。

 自分たちのキャリアもどうしようかと悩んでいるなか、ましてや、若い人たちが自律的にキャリアを築かなければならないと思っていても、指導のしようはありませんよね。

河合 本来はアドバイスをすべき立場の人たちにも、余裕や知識がないわけですね。

高橋 そうした状況が、今度は若い人たちに影響を与えています。誰からも正しい情報を与えられていないので、非常に歪んだ形でキャリアの自律を目指すことになっている。それは社会人だけでなく、大学生は大学生で、歪んだ就職活動(就活)によって歪んだキャリア観を持つようになっています。日本独特の変な就活でね。

河合 アジアからの留学生でさえもおかしいと言うくらいですから、やはり日本だけなんですね。とくに、大学で勉強すべき期間に長期間にわたって就活をすることが解せない、という声をよく聞きます。教える側にしてみれば、就活があるからと学生が授業に来なくなるので大変迷惑なことです。

高橋 長い期間をかけてやることもおかしいと思います。たとえば、韓国も中国も新卒一括採用はあると言われていますが、短いんですよ、すごく短い。

河合 就活の時期は、3年生のときではなく4年生になってからですよね?

高橋 そうです、最後の数ヵ月に行います。日本のように1年以上もかけることはありません。でも、もともと日本もそこまで長かったわけじゃないんですよ。それを4月から解禁となった途端、業界研究や企業研究をしている暇がないという声が上がる。おかしいですよ。

河合 変な話ですよね。たとえばアメリカでは、インターンなどで学生時代から仕事に触れています。常日頃仕事について考えているので、わざわざ業界研究などと言う人はいないと思いますよ。