福原愛が好例である。出身は宮城県だが、小学校は大阪、中学・高校は卓球の名門・青森山田に通った。他のトップアスリートも(小学校時代から転居することはまずないが)同様のルートをたどっている。高校野球では他県への「留学」が問題になっているが、多くの競技ではそれが当たり前なのだ。

 だが、この学校頼みの選手育成には問題もある。まず親の負担。強豪高校の多くは私立校で、大会で好成績を収めることは校名を高めることにつながるため、好選手は授業料免除などの特典がある。それでも遠征費や用具代などの出費が必要で、親の負担は決して少なくない。

 また、一貫した指導が受けられないという難点もある。中学―高校―大学と進学するたびに指導者が変わる。個性に合わない指導を受けることで才能をつぶされてしまうこともあるのだ。サッカーにはJリーグクラブの下部組織(ユース)からの育成システムがあるし、水泳もスポーツクラブによる一貫した指導が行なわれているが、このようなケースは一部。多くの競技において、選手が「環境選び」で悩んでいる。

スポーツ大国ニッポンの切り札!?
「エリートアカデミー」は吉と出るか?

 こうした問題に加えて、少子化と子どもたちのスポーツ離れが進んでいる。このままでは日本のスポーツの国際競争力は落ちる一方だと危機感を持ったJOCが、親に負担をかけず才能の芽をつぶさない育成環境を作った。それが「エリートアカデミー」である。

開校から約1年。その選手たちが表舞台に姿を現したのが、今回の全日本卓球選手権だった。そして女子は、“エリート”の名に恥じない好成績を収めたのである。

 国家レベルでスポーツを強化している国は少なくない。なかでも力を入れているのが中国だ。全国にスポーツ学校があり、運動能力に優れた少年少女をスカウト。特性に合った競技に振り分けて英才教育を行なう。そうした環境から多くのアスリートが育ち、北京オリンピックでは国別最多の金メダル51個、合計でアメリカの110個に次ぐ100個のメダルを獲得するスポーツ大国になった。

 この「エリートアカデミー」により、日本も小規模ながら、国を挙げてのアスリート養成システムを導入した。卓球女子ダブルスのベスト4という結果は、上々の滑り出しといえるだろう。だが、はたして中国と同様の成果は得られるだろうか。

 国から才能を認められた選手たちである。最高の環境で練習できるのはうれしいだろうし、意欲もあるはずだ。が、国のサポートを受けているという事実は重い。JOCには国から補助金が出ている(年間約30億円)。その原資は税金だ。中学生だから、それに対する想像力は働かないだろうが、伸び悩んだり故障をした時、大きな悩みを抱える可能性はある。

 そんな時のために精神的なサポートをするスタッフもいるようだし、もちろん切り捨てることもないだろう。目的が「トップアスリートの育成」だけでなく、「社会で活躍できる人材育成」を盛り込んでいる点に“逃げ道”が用意されている。とはいえ、彼らがプレッシャーに押しつぶされないかどうかは非常に心配だ。

 ともあれ、すでにプロジェクトは始まっている。彼らが順調に育つことを祈り、今後を見守るしかない。