真にイノベイティブな企業はソニー
アップルはソニーの背中を見ていた

 真にイノベイティブな企業はソニーであった。アップルはソニーの背中を見ていた――。

 多少、過激すぎる発言かもしれない。筆者がとんちんかんなことを言い始めたと思われても仕方ないだろう。

 それほどアップルは常にイノベイティブな雰囲気に溢れ、顧客を魅了する革新的な製品とサービスを投入してきた。iPod、iPad、iPhone、iTunesなど、数々のヒットを積み上げてきた。国家予算並みの現金を保有し、アップルがどこの企業に発注を出すかで部品メーカーの株価が変動するまでになった。

 一方、ソニーはかつての輝きを失い、慢性的な赤字に苦しみ、リストラを繰り返す。看板事業の1つであったPC「VAIO」の事業売却も決定し、創業者も関わった伝統事業であるテレビを子会社化し、目立ったヒット商品も出せずに悶々としている。各メディアからは、資産の切り売りで乗り切る「延命経営」と揶揄されている。

 現在の2大企業の状態を見比べれば、「真にイノベイティブな企業はソニーであった。アップルはソニーの背中を見ていた」という意見など、一笑に付されても仕方ない。

 しかし筆者は、ソニーの事業や製品を、スティーブ・ジョブスがケーススタディーしていたように思えて仕方がない。ジョブスがソニーの新商品を見て、こう呟いていたと思えてならない。

「大丈夫。そう長くは続かない。発売が早すぎる。市場が受け入れるまでにはまだ時間がかかる。消費者の反応をゆっくり観察させてもらうよ」

 自転車のプロロードレース、ツール・ド・フランスでは、チームのエースは常に2番手や3番手を走行する。先頭は風圧を受け、体力の消耗が激しいからだ。そしてタイミングを見計らい、アタックを仕掛ける。エースがマイヨジョーヌ(個人総合成績1位の選手に与えられる黄色のリーダージャージ)を受賞すれば、それはチームが受賞したことと同義になる。エースの勝利のために、チームが犠牲となる。