アップルが(買収先の)顧客に居ることはとてもうれしい。アップルとの強い関係を継続していきたい──。

シナプティクスのリック・バーグマンCEOと握手するRSPの工藤郁夫社長(左)は「ルネサスとは方向性が違った」と会見で語った
Photo by Hiroyuki Oya

 6月11日、東京都内の記者会見場。米電子部品メーカー、シナプティクスのリック・バーグマンCEO(最高経営責任者)はこう顔をほころばせた。シナプティクスが買収するのは、経営再建中の半導体大手ルネサスエレクトロニクスの子会社、ルネサスエスピードライバ(RSP)である。買収額は約485億円に上り、10~12月に買収を完了させる方針だ。

 今回、買収が決まったRSPはルネサスの隠れた優良子会社である。主力製品は液晶画面のどの場所をどの色に光らせるかをコントロールするための半導体。低消費電力で高画質を実現できると評価され、米アップルのiPhoneに採用されるなど、スマートフォン向けでは世界シェア約40%と堂々の首位に立つ。

 2008年にルネサスが55%、シャープが25%、台湾の力晶科技(パワーチップ)が20%出資して設立されたRSPの母体は、日立製作所の液晶向け半導体部門。RSPの工藤郁夫社長も、日立の半導体設計部門出身である。

 中小型液晶で世界初のフルハイビジョン表示を実現するなど、RSPが競争力を保ち続けることができた理由の一つは、液晶パネルメーカーとの太いパイプだ。

 出資元のシャープや日立の液晶パネル事業などが母体のジャパンディスプレイなど、大手パネルメーカーとの緊密な関係を活用した「高精細なパネルに最適な半導体を設計する“擦り合わせ”の技術」(ルネサス幹部)が、アップルにも認められた最大の武器なのだ。