これには2つの理由があります。

(1)給料が上がるタイミングは限られているから

 昇給は年に1回、もしくは2回の企業が大半です。今月、急に物価が上がっても、すぐに昇級されるわけではありません。

(2)給料は生活費「だけ」では決まっていないから

 企業は「明日も働くために必要なもの」を金額換算して給料として渡しています。そしてそうだとしたら、仕事が体力的・頭脳的に楽になれば、その「必要なもの」が減ります。

 たとえば、仕事現場に機械やテクノロジーが導入されて、仕事が楽になると、給料を押し下げる圧力が働くことになるのです。

 かつて、19世紀初頭のイギリスで「ラッダイト運動」という労働者の暴動が起きました。機械が生産現場に導入され、それによって職を失った労働者たちが、生産設備を破壊して回ったのです。機械が導入されると、人間の労働者は不要になるのです。

 これは、中世に限った話ではありません。現代でも生産ラインが機械化され、多くの労働者が職を失っています。

 さらにいえば、生産ラインに立っていないホワイトカラーも職や給料を失いつつあります。ホワイトカラーが行ってきた仕事は、やがてテクノロジーが代理で行えるようになるでしょう。

 すでに、難易度が高い職人技が機械・テクノロジーによって代替されています。その結果、労働者がこれまで培ってきた「経験」が価値を失っています。

 テクノロジーができるのであれば、「職人」は不要です。職人ではなく、機械を操作するオペレーターが新しく、低賃金で雇われます。いまや、ビジネス現場に機械やテクノロジーがどんどん入り込んで来ています。そして、ぼくらの労働はどんどん「楽」になっていきます。

 しかしその一方で、労働が楽になれば、給料が下げられてしまう可能性があります。「仕事が楽になったから、給料下げてもいいよね」と。

 生活費は上昇しました。しかし同時に、テクノロジーが発達することで、仕事はどんどん効率化し楽になっています。だから、かつてほど「下積み」がいらなくなり、かつてほど知力・体力を使わなくてもよくなりました。

 その分、給料を下げられてしまう。もしくはその分、上がっていたはずの給料をもらえなくなる、のです。単に物価が上がれば給料が上がるわけではありません。これでひと安心などしていられません。

 また、「仕事が楽になった」と喜んでばかりはいられません。ぼくらが給料を上げていくためには、仕事が「楽」になった分を埋め合わせ、さらにそれ以上に体力的・頭脳的に頑張らなければいけないのです。

 ぼくらが暮らしている資本主義は、そういうルールで動いていることを忘れてはいけません。


トークショー&サイン会のお知らせ

 2014年7月4日に、この連載の著者・木暮太一さんのトークショー&サイン会がパルコブックセンター吉祥寺店にて行われます。ぜひご参加ください。詳しくはこちらまで。


著者プロフィール

木暮太一(こぐれ・たいち)
経済入門書作家、経済ジャーナリスト。ベストセラー『カイジ「命より重い!」お金の話』『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』『新版 今までで一番やさしい経済の教科書』など著書多数。慶應義塾大学経済学部を卒業後、富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートを経て独立。学生時代から難しいことを簡単に説明することに定評があり、大学時代に自主制作した経済学の解説本「T . K論」が学内で爆発的にヒット。現在も経済学部の必読書としてロングセラーに。相手の目線に立った話し方・伝え方が、「実務経験者ならでは」と各方面から高評を博し、現在では、企業・大学・団体向けに多くの講演活動を行っている。


新刊書籍のご案内

この連載の著者・木暮太一さんの『超入門 資本論』が発売されました。本では、資本主義経済におけるお金と働き方の仕組みをさらに詳しく解説しています。

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