「働いても働いても給料が上がらない」「いつまでたっても生活が楽にならない」そう感じる人は多いだろう。しかし、これは頑張りが足りないわけでも、企業がブラック化しているわけでもなく、資本主義のルールに基づいて給料が支払われているから。常に生活がカツカツとなる本当の理由とは何か?
給料を高くするには?
これまで4回の連載を通して解説してきたとおり、給料は労働者が出した成果で決まっているのではなく、労働力の価値、つまり「その労働者が明日も仕事をするために必要なコスト」で決まっています。
この「必要なコスト」には、食事・住居などの体力を回復・維持させるために必要なお金だけでなく、その仕事をするために必要な知識・経験・技術を揃えるためにかかるコストも含まれます。
前回(第4回)で、医者や弁護士など、専門的な知識や長年の経験が必要な仕事は、そのために必要な知力を身につけるのに膨大なコストと労力がかかり、そのため医者や弁護士の給料は高い、という話をしました。
そして、現代の厚生労働省の統計データからも、マルクスの理論が当てはまっていることを確認しました。つまり、給料を高くするためには、「労働力の生産コスト」を引き上げることがポイントなのです。
Aさんの仕事をするのには、レベルAの知識や技術が求められるとします。そして世間一般的に、レベルAの知識や技術を身につけるのに、100時間かかるとしましょう。
一方、Bさんの仕事をするのには、レベルBの知識や技術が求められます。こちらのレベルBの知識や技術を身につけるには、200時間かかると思われています。この場合、理論的に考えるとBさんの方が時給が高くなります。
商品の原材料に、その商品をつくるためのスキル習得費が含まれるのと同様、労働力としての商品にも、「その仕事をするために必要なスキル」を身につけるために、かかった勉強量(労働量)や費用が考慮されます。食費、家賃、洋服代、ストレス発散のための飲み代の他に、技術習得費が「労働力の価値」として考慮されるのです。
レストランのシェフになるためには、調理師免許を取り、修業しなければいけません。その修業があって、初めてシェフとして働くことができます。つまり、その修業期間が「シェフとして働く」という労働力の「原材料」になっているわけです。だから、シェフの労働力の価値には、日々のシェフの労働だけでなく、この修業期間にかけた過去の労力も含まれるのです。
同じように、大学の先生になるためには、専門分野の知識を身につけるために勉強し、論文を書かなければいけません。この勉強期間や論文を書くのに費やした労力も「大学の先生の労働力の価値」に加算されます。
また、免許がなければできない職業があります。もし、その免許を取るのに100万円かかったとしたら、そのときかかったお金は、その仕事をする労働力の価値に加算されます。
ただし、100万円かかって資格・免許を取得しても、初回の仕事でいきなり100万円全額を「労働力の価値」として上乗せされるわけではありません。この資格・免許の有効期間を考慮し、その期間内で「100万円」を均等割りして労働力の価値に上乗せされるようなイメージです。
いずれにしても、その仕事をできるようになるために必要な準備期間、その準備に費やした労力も「労働力の価値」として加算されるのです。