実はクリエイティブな人間ではない?
USJ復活の立役者・森岡毅CMOの素顔

快進撃の背景には何があったのか。森岡氏は、著書『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?~V字回復をもたらしたヒットの法則』の中で、自らの取り組みの過程や苦労話を克明に語っている。その内容を踏まえながら、氏への取材でわかったUSJ復活の秘密を、「アイデア発想法」という観点から紐解いて行こう。
「エンタテインメントは、食品や生活用品のように消費しなくても生きていける。安定した需要はない。その意味で、テーマパークは常に厳しい生存競争に晒されている『集客アイデアの実験場』のようなものなんです」
森岡氏はこう語る。最初は華やかにオープンしても、わずか数年で鳴かず飛ばずになる集客施設は山ほどある。ところがUSJは、アベノミクス前のどん底の不況のなかで、森岡氏の着任後に入場料(スタジオ・パス/1日券)を毎年のように数百円ずつ引き上げたにもかかわらず、入場者数を低迷時の3~4割も増やしたという異例のケースだ。彼はよほどのアイデアマンなのだろうか。
意外なことに、「自分はクリエイティブなひらめきでアイデアを次々生み出せる右脳人間ではありません。論理や数字を頭の中で動かして意思決定をする、四角い頭の人間なんです」と、森岡氏は自己評価をする。「奇跡」と言われた裏で、この3年間は試行錯誤の連続だった。日々追い詰められるなかで、生き残るためのアイデアを生み出せるようになったというのだ。
天才的な右脳人間でなくても、凡人が素晴らしいアイデアを生み出すことはできる。そして、お金がなくてもコネがなくても、アイデアさえあれば苦境を挽回できる。それが森岡氏のモットーだ。具体的にどのようにしてアイデアを生み出し、それを形にしてきたのだろうか。
もともと化粧品メーカーP&Gの米国本社で、シャンプー製品のブランドマネジャーを務めていた森岡氏は、担当製品の市場シェアを大きく伸ばした手腕が買われていたものの、エンタメの経験はゼロだった。ただ、遊園地やテーマパークは子どもの頃から大好きで、USJへの入社前から世界中の主なテーマパークは制覇していた。
テーマパークは、多くの人に元気を与えられるビジネス。着任当初は右も左もわからなかったが、「より強い感動を届け、より多くの人を元気にできる世界最高のパークをつくろう」とやり甲斐を感じ、マーケティングの抜本改革に着手する。来る日も来る日もパーク内を歩いて観察し、マーケターの視点から問題点を炙り出し、整理して行った。
そこで明らかになったのが、「誤ったこだわり」だった。当時USJ関係者の多くは、お客が減った理由を、開業翌年の不祥事などでブランドが失墜したせいだと考えていた。しかし真の問題は別にあった。