新ファミリーエリア(現在のユニバーサル・ワンダーランド)を2012年春までに、そして「ハリポタ」を2014年度中に開業するため、ほぼ全ての設備投資費をそこへ集中投下する。それが森岡氏のアイデアだった。
むろん、この大冒険の青写真を披露した際に、経営幹部はほぼ全員反対したという。最終的にグレンCEOが後ろ盾となってゴーサインを出してくれたが、どう考えても危険な綱渡り。当面の問題は、集客数が振るわないなか、「ワンダーランド」や「ハリポタ」のオープンまでどうやって食いつなぐかだった。
その際森岡氏が大原則としたのは、「ワンダーランド」や「ハリポタ」に経営資源を集中投下するぶん、極力追加の投資費用を使わないことと、その一方で高い集客力を実現できるアイデアを捻り出すことだった。
おカネがなくても感動はつくれる。アイデアでヒットを出し続けるんだ――。森岡氏のマーケターとしてのすごさは、制約条件の多い既存の資産をうまく活用し、全く新しい価値を生み出せることにある。その後彼は、あたかも「アイデアの神様」が降りて来たかのようにヒットを連発することとなる。その3年間の取り組みの経緯を、駆け足で紹介しよう。
金がなくてもアイデアで乗り切る!
ひねり出した新機軸が次々にヒット

たとえば、開業10周年のイベント年だった2011年度は、対前年比8%増という年間集客目標を課せられた。期中に東日本大震災の発生による客足減、自粛ムードという苦境に見舞われることとなったが、結果的に2ケタ成長を実現している。
その原動力となったのが「ワンピース・プレミアショー」の売り出し、そして大震災後のテコ入れ策として新たに企画した「関西スマイル・キッズ・フリーパス」「ハロウィーン・ホラー・ナイト」「モンスターハンター・ザ・リアル」「世界一の光のツリー」といった4大戦略である。
まず、自粛ムードの払拭対策として導入した「関西スマイル・キッズ・フリーパス」は、強力なプロモーション効果を発揮した。「関西の子どもを元気にしたい」と橋下徹・大阪府知事(当時)に頼み込んで宣伝役になってもらい、大人1人につき子ども1人をUSJに無料招待するという大胆な試みだった。ゴールデンウィーク前から来場者数を急回復させることに成功した。
追加のキャピタルをあまり使わず、既存資産や人的資本をうまく活用したケースが、「ワンピース」と「ホラー・ナイト」。「ワンピース・プレミアショー」は、当時パークの片隅で行われて目立たなかった大ヒット漫画のショーに改めてスポットを当て、CMなどを通じてクオリティの高さを大々的に宣伝するという試みで、「こんなショーがあったのか」と多くのファンが集まった。