初登場以来7年連続で「世界最高ダークライド」の称号を得ていた「スパイダーマン・ザ・ライド」には、4K技術を駆使した3D映像の大スクリーンをアトラクション全体に導入し、映像の格段の進化を印象付けてゲストを圧倒した。取材で訪れた際に記者も実際に体験したが、目の前でスパイダーマンがビルの谷間を縦横無尽に駆け抜けているかのような錯覚に陥る臨場感は、これまで味わったことのないものだった。
ジェットコースターが反対に走ったら?
アトラクションの待ち時間記録を更新


もう1つは、パークの目玉だった高性能ジェットコースター「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド」。人間が本能的に恐怖を感じるのは後頭部からの落下だと分析した森岡氏は、なんと後ろ向きに走るコースターをつくろうと思い立つ。
「乗客の安全を保障できない」と技術陣は猛反対したが、後ろ盾のグレンはこのアイデアにゴーサインを出す。厳正な検証の結果、コースターはもともと基本性能が高いため、後ろ向きに走らせても乗客に負荷がかからないこともわかった。
人気タレントのSMAPがCMに楽曲を提供してくれた効果も相まって、かつてない恐怖を味わえる「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド~バックドロップ」には、開業間もなくして長蛇の列ができ、日本におけるアトラクションの待ち時間記録を更新することになる。ちなみに、記者は実際に乗ったとき、まるで空を飛んでいるかのような不思議な浮遊感に襲われた。確かにこれは、正面からの落下では体験できない感覚だろう。
リノベーションで蘇った2つのアトラクションの大ヒットにより、2013年度は悲願の年間集客数1000万人を回復。第二段ロケットの「ハリポタ」に全力投球する準備は整った。着任以来、社内の壁と対峙しながら試行錯誤の3年間を乗り越えて来た森岡氏の真価が、試されることとなる。
それにしても、どうして次から次へとヒットのアイデアが湧いてくるのか。前述のように、森岡氏自身は「元来、クリエイティブな人間ではない」と自己評価をする。世のマーケターがトレンドの指標として最も重視する女性の「カワイイ」という感覚もよくわからないと言い、共感できないぶん、人の話やアイデアを頭で理解しようと日々努めているという。
その疑問を解くヒントは、著書『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?~V字回復をもたらしたヒットの法則』の中で氏がレクチャーしている、4本の柱からなる「イノベーション・フレームワーク」というアイデア発想法にある。