グローバルモードへの初出社

 JR新橋駅の改札を出て汐留方面に向かう広い地下歩道を通り、高山は巨大なアトリウムのあるビルに入っていった。

 最初の面接の際は、入るビルを間違えておもいきり遠回りをしたが、グローバルモードの初出勤となるこの日は、ビルの内部を見回す心の余裕もあった。

 粗利率が高いビジネスだと、こういう所にオフィスを構えられるのか――。

 グローバルモードが入っている23階でエレベータを降りた高山は、受付から人事部を呼び出した。 人事の事務的な手続きを終了し、高山は会議室に通された。

「これから社長、副社長と会っていただきます」 人事の担当者に促されて、高山は席に着いた。

 しばらくして会議室のドアが開いた。

「やあ、高山君。よく来てくれた」 田村社長は会議室に入ってくるなり、高山に向かって満面の笑みを浮かべた。

 あご鬚をたくわえ、明るめのグレーのスーツにノーネクタイで現れた田村社長を見て、高山は改めてレディースアパレル企業の社長は格好が違うなと思った。

 面接の時には緊張のせいか気が付かなかったが、高山が、見慣れ、いつも着慣れているスーツとは、シルエットのしなやかさ、なめらかな素材感、そしておそらく価格帯まで、明らかに違うものに見えた。 ロロピアーナあたりのファインウールだろうか、あるいは、日本にほとんど入っていないブランドを着ているのか…、高山は一人で考えていた。

「彼が、あの高山くんです。『しきがわ』で改革をやったという」 田村社長は、一緒に会議室に入ってきた年配の女性に言った。

「あなたが、高山さん? 私、副社長の田村良子です。よろしくお願いしますね」 その女性は、高山に向かって、両手を前にして深くお辞儀をした。

「こちらこそ、よろしくお願いします」 社長と同じ姓だから、奥さんなのだろうか? 社長と同じ60歳くらいに見えた。

 副社長は上品で落ち着いたアイボリーのスーツ姿だったが、レディースファッションに疎い高山には、ブランドやテイスト、デザインのことなどは、皆目わからなかった。

 同席していた人事の担当者が、高山の耳元でささやいた。

「社長のお姉様です」

「あっ、そうですか」高山も小声で答え、社長、副社長は高山の前に座った。