大手紳士服チェーン「しきがわ」を退職した高山昇は、レディースアパレルを複数展開する一部上場企業、グローバルモード社に転職する。高山は、社長の田村から直々に低迷する事業の立て直しを命じられる。しかも、その期限は半年――。果たして、高山は社長の期待に応えられるのか? 若き参謀、高山昇の奮闘ぶりを描く『経営参謀』が6月27日に発売になりました。本連載では、同書のプロローグと第1章を5回に分けてご紹介します。
最終面接
「つまりあなたは、同質化した競争状況にある郊外型紳士服チェーンの『しきがわ』で改革に取り組んだわけだ。経営企画の立場で経費管理や人事制度の改革を行い、そして新規業態の立ち上げまで成功させた…、とこういうわけだな」
田村は右手であご鬚を触りながら、改めて高山の職務経歴書を眺めた。
東京・汐留にある住元第二ビルの23階。株式会社グローバルモードの役員会議室で、高山昇は二代目社長の田村富三と向かい合っていた。
レディースアパレルを展開するグローバルモードは、売上高880億円、従業員1200人を擁する東証一部上場企業。
高山は、同社の中途採用試験に応募し、今日がその最終面接の日だった。
「ではなぜ、そのまま『しきがわ』に残って改革の仕事を続けようとしなかったのかね?」
田村の問いに高山は、自分の考えをまとめようと目線を下げた。その様子を見ながら田村は、さらに質問を続けた。
「君のように、明らかな結果を出している社員なら、自分の待遇には、まず不満はないはずだ。表向きはどうあれ、会社への不満があったのではないのかな。少なくとも面接する側からすれば、そう考えるのが妥当だが…。どうだ?」
田村に促され、高山は顔を上げた。
「そのほうが、自分のために良いと思ったからです。会社というものは常に、いろいろな課題を抱えていて、それに取り組んでいかねばなりません。そのためには自分が場数を踏むことがいちばん重要なのだと思いまして…」
我ながら青臭い答えだとも思ったが、高山には他に良い表現も思い浮かばなかった。
「自分のためか…。ふむ、まあ確かにその通りだな」 高山の話を聞いていた田村はさらに、「同じ業務を毎日繰り返すような仕事はもう卒業したい、ということでもある」と独り言のように言った。
田村は、しばし高山を凝視していた。そして突然、強い口調で言った。
「高山君。今のうちに必要なのは、君のようにイニシアティブを持つ人材なのだ!」
高山は、田村の勢いに一瞬たじろいだが、グローバルモードの内部事情はわかるわけもなく、「はあ、そうですか」と、なんとも間抜けな答えをしてしまった。
「高山君、あなたにやってほしいことがある」
高山は社長からの、じきじきのこの言葉には内心、少しだけ嬉しくなった。 田村は高山の心情を知ってか知らずか、熱く語り続けた。