ライバル会社の台頭
「うちの会社は、もともとニットが得意でね。先代の創業者、我々の父親なのだが、彼が卸で創業して百貨店での商売で伸ばした会社なんだ」
社長が話を始めた。
グローバルモードといえば、高山には百貨店を中心に展開しているレディースアパレルという印象が強かった。
「しかしながら消費の中心は、百貨店から、イトーヨーカドーやイオンのような総合スーパーと呼ばれる量販店に移り、ショッピングセンターも日本国中に増えた。我々としても、主要流通チャネルが変化していく、いわゆるチャネルシフトに対応して、駅ビルやショッピングセンター向けのブランド店舗を開発してきたわけだ」
「今、うちは大小含めて50ブランドくらい展開しているのよ」副社長が付け加えた。
「ところがそこに、あの『モノクロ』が国民服と呼ばれるような安価なカジュアル服を売る店を展開してきた。我々としては、その市場をそのまま『モノクロ』などに持っていかれるのは面白くない。そこで始めたのが『ハニーディップ』というファミリーブランドなんだ」
「あたしもね、この『ハニーディップ』っていうブランドを、うちの会社がやるべきなのかどうか、最後まで迷ったんですけどね。でも、社長がどうしてもやりたいって言うから…」
「ああ、我々はもともとレディースファッション中心の会社で、こういうコモディティブランドはやってこなかったからね」
高山は、ここグローバルモードでは『モノクロ』のような実用色の強い服を、従来から扱ってきたファッションブランドに対して、コモディティブランドと呼んでいるのだと理解した。
「それでね、社長が言う通りやってみたら、今はもう130店舗で売上規模は、うちで二番目に大きいブランドにまで育っちゃったのよ」副社長が言った。
「そこまでは良かったのだがねえ。実は、もう2年ほど既存店の売上前年割れが続いているのだ…」 眉間にしわを寄せた田村社長は、副社長を見た。
「高山君に、うちの『ハニーディップ』ブランドの立て直しをやってもらおうと思うんだ」
「あら、この方、メンズの出身でしょう? レディースファッションのことなんてわかるの?」 副社長の問いには、社長が答えた。
「大丈夫だろう。一度、アパレルの改革をやっているわけだし、いろいろな角度から現状の分析もして、ブランドの不振理由を明確にすることから始めるだろうから。うちにもデザイナーはいるから、方向性さえ明確になれば、デザインを起こせるし、ものづくりは万全なはずだろう」
「そうなの? ならば、そうかもしれないけど…」 副社長は、いぶかしげな表情を見せたが、それ自体に強くこだわっているようには見えなかった。
「高山さん、あたしね、経営のことってよくわからないの。ただね、社員のみんなが元気にのびのびとやってくれたらいいなって思っているの。うまくやってくださいね。よろしくお願いします」
副社長の素直すぎる言葉に、高山は多少の戸惑いを覚えたが、人の好さがそのままにじみ出ているようには感じられた。