財務官時代には、米国と連動した外国為替への積極的な介入を行ない、「ミスター円」との異名を取った、榊原英資・早大教授/インド経済研究所所長が、円と株価の行方を占う。

榊原英資
榊原英資・早稲田大学教授/インド経済研究所所長 (N.kamijyo)

 今年の3月末には1ドル100円を割り込むと想定していたが、それが思った以上に早かった。

 米国の経済指標、なかでも2月の雇用統計や小売売上高の数値が市場の予想以上に悪く、サブプライムローン問題を契機とする金融不安が、モノライン(保証保険業務を専門に行なう保険会社)に波及し、さらにはヘッジファンドやプライベートエクイティ(買収ファンド)の経営をも悪化させている。ますます深刻な状況になってきたということを、今回のドル安は表している。

 このとき、日本が警戒しなければならないことは、円安バブルの崩壊である。

 ユーロに対してドルはかなり弱くなったが、ドル安、円安基調は最近まで続いていた。ドル安は米国経済の減速を反映しているが、円安の理由は、なにも日本経済が悪化したからではない。ひとえに日本の金利が低いからであって、そうしてバブルがつくられていったのだ。

 FRBは利下げを重ね、日米の金利差が縮小したことで、そのバブルが今まさにはじけようとしている。

 今のところ、影響はドル/円だけだが、この先、円/ユーロ、円/ポンド、円/スイスフランなどに波及することは十分に考えられる。

 円安を前提に、円で調達して南アフリカ共和国のランドや、オーストラリアドルなどの高金利通貨に向かっていた資金は、そうとうなダメージを受けるだろう。外国為替証拠金取引(FX)や関連の投資信託投資を行なっていた個人投資家も含め、多大な被害を受けることになる。いずれユーロやポンドなどの通貨においても同じことが起きるはずだ。バブル崩壊の混乱は必至だ。

 企業収益も減る。当然、株価も下がる。日経平均株価の1万1000円台は間近だが、すぐに1万円近くまで下がるだろう。

 もっとも、円安でかさ上げされていた収益ははげるものの、日本企業の競争力が衰えたわけではない。この状況は、日本経済崩壊ではなく、円安バブルの崩壊なのだ。

 1ドル90円でも、1ユーロ130円でも、日本企業は十分やっていける。90円は、実質実効レートでは、10年前の120円程度だ。決して円高ではない。

 だが、夏以降、中国経済が調整局面に入れば、状況は一変する。となれば企業収益にも甚大な影響が出るだろう。

 商品市場はしばらく高値の状況が続く。ただし、世界経済が極端に悪くなったときには実需が減り、商品価格下落が合理的になると、投機資金が逃げる。一気に逃げれば暴落となる。そのシナリオを織り込みながら、商品価格は上昇している。これもバブルなのだ。(談)

(聞き手:『週刊ダイヤモンド』副編集長 遠藤典子)