世界で最も刺激的なビジネススクールと言われる、デンマークの「The Kaospilots」に日本人初の留学生として受け入れられた大本綾さん。大好評の「留学ルポ」連載第10回は、今年春から3ヶ月間、社会貢献プロジェクトで南アフリカのケープタウンに滞在した時の模様を特別リポート。数々の問題を抱えるアフリカで見た、デザイン思考の成果とは? アフリカを通して見た未来とは?

南アフリカで使ってみたデンマークのデザイン思考

「一体何をやっているんだい?」

 声のする方を見ると、40代くらいの黒人男性が立っていました。そこは南アフリカ、ケープタウン。アフリカ南端のテーブル湾に位置する、人口約300万人のアフリカ有数の世界都市です。

 2010年のFIFAワールドカップ開催地として注目を集めたケープタウンですが、最近では、故・ネルソン・マンデラ前大統領を連想させる歴史的な都市で、2014年のワールド・デザイン・キャンピタルに選ばれたことからニューヨーク・タイムズ紙が発表した「2014年訪ねてみたい都市トップ52」のナンバーワンにランクインしました。

 2014年で、南アフリカは人種隔離政策が撤廃されてから20年が経ちます。民主化後に生まれた「ボーンフリー(生まれながらに自由)」という若者世代がいる一方で、人種隔離政策で過酷な生活を強いられ、目に見えない心の傷を抱えている人が未だに多くいるのも事実です。

 デンマークのビジネスデザインスクールに留学中の私は45人の同級生たちと一緒に3ヶ月間、様々な形で社会貢献のプロジェクトを行うためケープタウンに滞在していました。ケープタウンの街中で、私たちのプロジェクトに興味を持って声をかけてくれた黒人の男性に、こう答えました。

「テーブル・オブ・ホープというプロジェクトで、この細長い木の棒に願いごとを書いてもらってるんです。願いごとが書かれたこの棒がたくさん集まったら、一緒にまとめて木のテーブルを作る予定です。出来上がったそのテーブルを囲んで、たくさんの人がこれからどんな未来を作りたいかという話をする場ができたらいいなって」

 留学先のカオスパイロットの授業で、マハトマ・ガンジーの「見たいと思う世界の変化にあなた自身がなりなさい」という言葉を知りました。私はデンマークの学校でみるような、誰もが平等に人が一人の人間として尊重される場所を、世界で増やすことが夢です。またそんな世界を実現するためのデザイン思考を学んだので、南アフリカに合った形で実践すればこうした企画を通して誰もが人間らしく幸せに生きるきっかけを作れるのではないかと思っていました。

 一通り企画を説明すると、「イアン」と名乗るその男性はすぐにペンを取って書いてくれました。書き終わったあと、「これを読んでくれ」と彼は私に言いました。そこにはこんなことが書かれていました。

「私の願いは、すべての魂が彼らでさえもいつか、人として認められたり認識されることができると、見たり、聞いたり、感じたり、気がついたりすることのない状況だ。私の願いはいつか、私たちのストーリーが誰かに聞かれるべきだと受け入れられて、尊敬されることだ。何かを持っていないから、私たちは見捨てられるのではない。皆、すでにその何かを持っているのだ。私たちはみな同じ人間で、愛そのものだ」