お客様を驚かせたときに、
「値打ち」は生まれる。

 しかし、清水は「安かろう悪かろう」とはまったく違う商売を志していました。寿司職人としてのプライドにかけて、「味」に対して一切妥協をしなかったのです。
「それ、値打ちあるんか?」
 これが、清水の口グセでした。

 かつて、私は安い魚を大量に仕入れたことがありました。そのままネタには使えませんが、うまく加工すれば商品化できると考えたのです。

 ところが、出来上がった寿司を見た瞬間、清水は「そんなもん、値打ちあるんか?」と悲しい顔をしました。「仕入れ値が安いから、利益は出ます」と応えると、「そんな利益はいらん」と一喝。そして、こう続けました。

「しょうもないもんを売るな。ええか、いくら安くたって、しょうもないもんだったら、誰も喜ばない。逆に、高くてモノがいいのは当たり前。『安いし、こんなにうまい!』と驚かれたときに、はじめて値打ちが生まれる。どんな商売でも、長く続いているのは、値打ちのあることをやり続けているところや。俺たちも値打ちのある商売をしようや」
 これが、清水の商売哲学でした。

 だから、開業当初から原価率は50%。外食産業の平均原価率は30%台ですから、まさに“非常識”な原価率です。利益を出すためには不利な選択ですが、やり方を工夫すれば、「原価率50%」で持続可能な商売ができるはず……。そう考えた清水は、私たちにこう語りかけました。

「頑張って、いちばん難しい道を行こうや。お客様に喜んでもらうことを第一に考えるのが商売。正しいことを真面目にやり続ければ、必ず報われるときが来る