頭突きへの報復

 なんとか彼らは俺をリングから下ろした。控え室に戻る途中、誰かが水のボトルを投げつけ、誰かが俺に向かって中指を立てた。俺は手すりを乗り越えて、そいつらに襲いかかろうとしたが、セコンドたちに引き戻された。さらにあちこちから炭酸飲料やビールが投げつけられる。アンソニー・ピッツの2500ドルした特製のガウンが台無しになった。

宿命のライバルとなったタイソンとホリフィールドだが、実はジュニア・オリンピック時代からの長い付き合いで仲も良かった。(Photo:© Steve Loft/Boxing Hall of Fame Las Vegas)

 ミルズ・レーンはリングでインタビューを受けていて、ホリフィールドのバッティングはすべて偶然のものと主張した。ホリフィールドはインタビューを受け、ミルズ・レーンを称賛した。

「ミルズ・レーンのような、状況を冷静に見定め判断できるレフェリーがいてくれたことに、我々は感謝している」

 俺はまだ控え室で怒り狂っていた。グラブをはめたまま壁を殴りつけていた。ジョン・ホーンが〈ショウタイム〉のアナウンサー、ジム・グレイのところへ談判に行った。

「これだけはわかる。マイクは目の上に3インチの裂傷を負い、イヴェンダーはちょっと耳を噛まれたが、あんなものなんでもない。小さな雌犬みたいにリングを飛び回りやがって。あんな長いあいだ頭突きを許すなんて、どういうことだ。いいかげんにしろ。バッティングのうち1回は偶然だったかもしれないが、あとの15回はそうじゃない」と、ジョンは吼えた。

 試合後に受けたインタビューのことはほとんど覚えていない。俺の顔はグロテスクな仮面みたいで、あちこち切れて腫れ上がっていた。怪物のようだった。ジム・グレイが控え室の外で、帰りかけた俺に追いついてきた。