「ウォークマン」という商品があります。この商品が、どのようにして生まれてきたのかは有名なエピソードがあります。

 1976年、当時ソニーの会長だった盛田昭夫氏が、スキー場で聞こえてくる音楽が気に入らず、自分の好きな曲を聴きながらスキーをしたいという発想がもとで、小型携帯型の再生専用テープレコーダーという商品コンセプトを思いつきました。

 しかし、ソニーの設計陣にそのコンセプトの商品化を打診すると「そんな商品は小さすぎてつくれない」「たとえつくれても、そんな商品は特殊すぎて売れない」といわれたといいます。しかし、会長という立場にあった盛田氏の粘り強い説得により、失敗した場合の責任をとることを条件に、ついに商品化に踏み切りました。

 ところが、販売した途端、爆発的大ヒットとなり、ソニーという企業の名声を一段と高める結果となりました。

 このエピソードは、私たちに何を語っているのでしょうか。

 それは革新的なヒット商品のアイデアというのは、市場調査からは生まれないということです。

消費者の潜在的ニーズは
市場調査では明らかにならない

 ソニーがウォークマンを商品化する以前に、ウォークマンのようなものを商品化したところがあったでしょうか。ウォークマン以前にウォークマンはなかったのです。しかし、一度ウォークマンという商品が具体的に目の前に出現すると、「こういうのが欲しかった」という人が大勢現れました。つまり、そうした商品のニーズは、多くの消費者のなかに潜在的には存在していたのですが、そのニーズは消費者の側からは具体的に顕在化することはなかったということです。

 なぜなら、消費者自身がそうしたニーズの存在に気がついていなかったからです。

 したがって、表層的な意識レベルの情報しか把握できないネットアンケートやグループインタビューをいくら綿密に行なっても、革新的なヒット商品のアイデアは生まれてこないのです。

 では、こうした市場調査に頼らずに、顧客の潜在ニーズをつかむには、どうすればよいのでしょうか。

 その手がかりは、実は、顧客に関する「アナログ情報」の活用の仕方にあります。

読者の手書きメッセージを活用
シニア世代の心を掴んだ『いきいき』

 50代女性をターゲットに、2005年10月現在で、41万部を発行するユーリーグの『いきいき』という直販雑誌があります。いわゆる中高年向け雑誌はこれまで40種類を超えるものが出版されてきましたが、10万部を超えているのは、この『いきいき』と小学館の『サライ』しかありません。『サライ』の場合は、書店売りで公称25万部といわれ、しかも、読者層が必ずしも中高年とは限らないので、いかに『いきいき』が抜きん出ているかがわかります。