半沢直樹シリーズ最新作『銀翼のイカロス』

修正再建案が不調に終わったら、帝国航空は破綻する。
「この難局を確実に乗り切れるのは君しかいない」と託された半沢。さっそく帝国航空の担当作業チームとの顔合わせが……。

 旧産業中央銀行と、旧東京第一銀行というふたつの銀行が合併して誕生した東京中央銀行では、特に上層部においていまだ出身行同士の派閥争いが内燃している。行内ではそれぞれの出身行員たちが相手のことを旧S――旧産業中央銀行、旧T――旧東京第一銀行と呼び合い、様々な場面で目に見えない鍔迫り合いを繰り広げていた。
 不良債権が多かった旧Tの人材が重点的に債権管理サイドに配置されているのは合併以来の傾向で、審査部の主要ポジションは、旧T出身者が占めている。
 むろん曾根崎もそのひとりで、さらに帝国航空は、もともと旧Tが主要取引先として擁してきた特別な存在でもあった。
 いわば旧Tの威信がかかっていたといってもいい取引先を、半沢ら旧Sが幅を利かす営業第二部に移管することは、旧Tのメンツを潰すことに等しいのである。
 内藤は続ける。
「役員会では紀本さんが異論を口にされたんだが、緊急事態だといって頭取が押し切ってしまわれてね。ウチとしても、審査部さんの担当先を引き継ぐというのはどうかと思ったんだが、今回ばかりは致し方ない」
 紀本平八は、不良債権回収を主担当とする債権管理担当常務で、旧T人脈の有力者のひとりだ。そうした経緯についてはすでに聞き知っているだろう曾根崎は、悔しそうに唇を噛むのみである。