「肝心なのは帝国航空にとって事業計画など単なるペーパー程度の重みしかないということなんです。あるいは、金融機関から支援を引き出すためのツールといっていいかも知れません。計画して約束したことをきちんと果たそうという意識も希薄で、要するに危機感がないんですよ」
その指摘は、この事案が持ち合わせた難しさの一面を端的に言い表しているような気がした。半沢の経験からいうと、最後には銀行がなんとかしてくれると思い込んでいる経営者ほどタチの悪いものはない。
「先日帝国航空が発表した業績見通しによると、前期に引き続き五百億円ほどの赤字を計上することになっています。リストラしようにも従業員組合が猛烈に反対してまして。高すぎる企業年金の減額についても、OBが反発して進んでいません」
田島の説明は、帝国航空が直面している様々な難題にまで及んだ。
赤字路線撤退に対する政治家や国土交通省からの圧力。会社と激しく敵対する労働組合。機材の老朽化。世界的に見ても飛び抜けて高い着陸料や航空機燃料税などの公租公課──。そのどれもが一筋縄ではいかないものばかりだ。
「どういうことかわかるかよ、半沢」
曾根崎が横から口を挟んだ。「役員たちは、オレたち審査部がぐうたらだからこうなったと思っているらしいが、実際はそうじゃない。あんな会社は、誰がやっても同じなんだよ。もちろん、お前がやってもだ」
そういって太い人差し指を半沢に突きつけた。「帝国航空をお前に担当させろというのは、頭取の意向なんだってな。結構なことだ。だけどいい気になるなよ。オレたちにできないことを、企業再建の経験がないお前にできるわけがない。お前はきっと引き受けたことを後悔することになる」
「まあ、そうならないよう、せいぜいがんばるさ」
半沢はいうと、曾根崎のことなど気にするふうもなく田島にいった。「帝国航空にアポを入れてくれないか。挨拶に伺いたい」
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