中小・零細企業向け融資や個人向け住宅ローンの返済猶予を行なう「モラトリアム法案」について、今月5日に中間報告が出された。亀井静香金融担当相は今後、秋の臨時国会に法案を提出し、年内には施行させる意向だ。
返済猶予期間は3年以内、元本だけでなく金利も対象とする方針で、すでにメガバンク、地銀などへのヒアリングを行なっている。
だが、金融機関は警戒を強めている。全国銀行協会の永易克典会長(三菱東京UFJ銀行頭取)は今月1日に亀井大臣を表敬訪問した際、同法案について「いろいろな意見を申し上げる」と牽制した。
銀行界では「民間の契約を、国が強制的に変更するのは財産権の侵害だ」と、早くも不満が噴出している。
金利が返済猶予となれば、金融機関の金利収入が減少するため、業界の反発は必至だ。金融機関は政府に対して利子補給を求める可能性があるが、そうなると財源確保という新たな問題が浮上する。
また、元本の返済猶予も、金融機関にとっては負担となる。通常、元本や金利の返済が延滞すれば、不良債権として一定の引当金を積む必要がある。
亀井大臣は、返済猶予した場合でも正常債権として扱うよう、不良債権基準の緩和を示唆している。だが、不良債権に区分せず、金融機関に対して追加融資を促すことになれば、「借り手企業によるモラルハザードが起きる可能性もある」との懸念の声も上がる。
9月下旬に開催された主要20ヵ国・地域(G20)金融サミットでは、金融機関に対する規制、監視強化で合意している。今回の「モラトリアム法案」は、こうした世界的な規制強化とは逆行することになるとの指摘もある。
いずれにせよ、本誌が店頭に並ぶ頃には、法案の原案が取りまとめられる見通しだ。その中身次第では、銀行からの反発はさらに激しくなる可能性がある。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 松本裕樹)