根拠があるわけではないが、作家は短命というイメージがある。芥川龍之介が35歳、太宰治は39歳、自ら命を絶っていることも個人的な印象を強めている。

 しかし、女性作家はなかなかに元気だ。齢90を過ぎてなお執筆欲旺盛な瀬戸内寂聴先生をはじめ、今回とりあげる宇野千代と、たくましい女性が多い。

※享年(数え年で表記)
イラスト/びごーじょうじ

 宇野千代は大正、昭和、平成という3つの元号にまたがって活躍した作家である。同じ作家の尾崎士郎をはじめ、梶井基次郎、画家の東郷青児、編集者の北原武夫などと、恋愛や結婚、離婚を繰り返したことでも知られる。また、着物デザイナーでもあり、実業家としての顔も持ち合わせていた。小説家としては寡作だったがエッセーなどを数多く残し、98歳で亡くなるまで、その人生はエネルギーに満ちていた。

 宇野千代には『私の長生き料理』というそのものずばりの著作がある。そこには一見すると普段着の和食が並ぶ。

「よく考えてみますと、料理の好みの中にも、実は人間の性質がはっきり現れるもののように思えるのですね」

「わたしという人間は(中略)味も年に似合わず、しつこいものが好き。(中略)これも自然の欲求でそうなっているのでしょうか。今でも炒めものが好きですし、煮ものもちょっと油を通してから煮るというようにして、コクのある味が好きなのです」

 この言葉の通り、彼女は脂質の取り方が巧みだった。抗酸化物質を多く含む太白のごま油を用い、さらには豚肉を入れた酢の物をはじめ、牛の脂入りのおからなど考案した料理も多彩だ。

 余談だが、彼女の有名な料理に『極道すき焼き』がある。名前からしてすごいのだが、作り方も迫力満点だ。まずはなるべく上等の(百グラム3000円以上の)和牛の肉を用意する。他の材料は卵黄、少々濃い目の割り下、ナポレオン級のブランデー、太白ゴマ油だ。