「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人間であるかを言い当ててみせよう」
これは『美味礼賛』(岩波文庫)という著作を世に残したフランスの美食家、ブリア=サヴァランによる箴言である。食と人生の深い関係は言うまでもないが、食べ物を選ぶことはどのように生きたいか、ということを考えることであり、また人の生き方と食べ方はどこかリンクしている。
ところで、ジャンヌ・カルマンという人物をご存じだろうか? 彼女は人類史上、最も長生きしたとしてギネスブックに認定された女性である。1875年、フランス生まれ、1997年に亡くなるまでを、ゴッホが愛したことで有名なアルルで過ごした。享年、何と122歳。85歳からフェンシングを始め、100歳まで自転車に乗っていた、というのだから驚きだ。
彼女は生前のゴッホに会ったことのある女性として報道されたことがきっかけになり、一躍有名人となる。世界中からその長生きの秘密を知りたい、と注目されたわけだ。そんなわけで彼女についてはかなりの記録が残っている。ここでは長寿の秘訣たる食生活が気になるところ。
彼女は「料理にうるさかった」というが、いわゆる健康オタクではなかった。喫煙者の上、自分の好きなものしか食べなかったのだ。野菜が嫌いで、好きな食べ物は「赤ワイン」と「チョコレート」。この2つを生涯欠かすことがなかった。1週間に1㎏近いチョコレートを食べていた、というから驚きだ。
注目したいのはチョコレートや赤ワインに含まれるポリフェノールの抗酸化作用だ。アンチエイジングに抗酸化物質が重要な役割を果たすことは最近、特に注目されている。
「チョコレートは脂肪が多いので、動脈が詰まるのでは?」
そう思われる方も多いかと思うが、答えはイエスでありノーだ。確かにチョコレートの3分の1は脂肪だが、ココアバターは飽和脂肪でありながらコレステロール値を上げないことがわかっている。むしろ含まれている抗酸化物質が悪玉コレステロールの酸化を防ぐのだ。
また歳をとれば消化器官に負担をかけないよう、少量で効率よく栄養素を摂取することが重要になってくる。チョコレートはその点でも優れた食べ物だ。