赤ワインやチョコレートに含まれる「身体に良い成分」といえば、ポリフェノール。中でもレスベラトロールは、心血管疾患発症のリスクを減らし、寿命を延ばす成分として人気が高い。ところが、米ジョンズ・ホプキンス大学の医師が「効果に疑問あり」との調査結果を発表した。

 研究者は1998~2009年にイタリア・トスカーナ州のキャンティ地方(ワインの有名な産地である!)で行われた二つの加齢研究に参加した65歳以上の男女783人を追跡調査。被験者はいずれもレスベラトロール豊富な食事を日常的に摂っていた。

 9年間の追跡調査期間中、268人が死亡し、174人が心血管疾患を、34人ががんを発症した。それぞれ尿中レスベラトロール濃度を調べたところ、濃度が最も低い人と最も高い人の死亡率に有意差はなく、心血管疾患やがんの発症を予防する効果は認められなかった。また、動脈硬化を反映する血中炎症マーカーにも、何ら影響はなかったのである。研究者は「欧米型の食事パターンでレスベラトロールを摂っても、心疾患やがんの発症、長寿に影響するとはいえない」としている。

 もともと、レスベラトロールが注目されたのは、「フレンチ・パラドックス」がきっかけ。動物性脂肪の消費大国フランスで、なぜか、心筋梗塞の発症率が低いという矛盾を解く鍵として「赤ワイン」が注目されたのだ。

 それ以降、世界中で赤ワインの抗動脈硬化作用や抗酸化作用、最近では抗アルツハイマー病作用に言及した報告が相次ぎ、概ね「効果あり」の判定を下している。ただし、赤ワインの「何成分」が寄与するかは、未だはっきりしない。

 今回の研究対象のレスベラトロールだが、実は数年前に長寿遺伝子活性作用を証明した(といわれる)研究データの改ざんが発覚したため、長寿効果についてはすでに大きな疑問符が付いている。本研究結果は、それを現実で追認したといえるかもしれない。

 ともあれ、一つの成分をアレコレ取り沙汰するより、一杯の「赤ワイン」を素直に楽しんだ方が健康にも味蕾にも良さそうだ。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)