父「大型書店の就活のコーナーには、『自己分析』の本が一杯並んでいるね。驚いたよ。昔は『自己分析』なんて誰も言わなかったけどね」
妻「『自己分析』、って何をするの?」
父「小さい頃からの自分を振り返り、今まで、どういう経験をして、一体自分は何に向いているのかを確認する訳だ」
娘「それによって働く意味を考えたり、エントリーシートを書く材料にするんだよ」
妻「昔、流行った『自分探し』ね。普段は、そんな機会はないからやってみたらいいんじゃない。裕美は、もう取り組んでいるの?」
娘「まだなの。そろそろやろうと思っているけど」
父「なぜ気が進まないのかな?」
娘「自分のことを突き詰めても意味があるのかなぁ。就活をしている人と話した方が気づくことが多いよ」
父「たとえば?」
娘「今までは、自分の身近にある商品を作っている会社がいいと思ってきたけど、それって結構、上っ面だけなの。本当は、その商品を生み出す力や、社会にどのように受け入れられているかが大事だと思ってきたの」
父「たしかに、他の人に話を聞いてもらうことは大事だね。お父さんも自分の内面を見ても何もない(笑)。ただ、学生仲間だけで話すのもいいけど、就活では、普段周りにいない人と話すのが大事だと思うよ。会社で働くことも、就活も学生にとっては未知の世界だからね」
実は、私はキャリア・コンサルタントの資格を持っているが、学んだテキストには「自分自身を洞察して『自己理解』(自己分析に近い:筆者)を行い、職業情報を把握する『仕事理解』を経て、そして『意思決定』する」とある。
以前にも述べたように、私は仕事観に関する長時間のインタビューを続けている。サラリーマンから転身した人200名にご協力いただいた。彼らが自らのキャリアを変えるプロセスは、このテキストの内容とは大いに異なる。
大半は計画的な意思決定ではなく、行動や人的ネットワークの変化自体が次のステップを少しずつ明確にする。小さくても新たな具体的行動を行い、今までとは異なる人に出会うプロセスが重要なのだ。自分の内面を見つめたり、性格や行動様式を特徴づけることで得られるものは多くない。論理よりも行動が先なのである。人は、頭で考えて新しい行動様式を身につけるよりも、行動して新しい思考形態を見出すほうが自然なのだ。